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映画『Hunger』でアイルランド英語
1980年10月10日、7人のIRA服役囚は次のような声明を発します。
「我々は権利として政治的認知と政治犯的待遇が与えられることを要望する。我々は英国が我々と我々の闘争にレッテルをはろうとしている『政治犯』とう用語に強く反対する」
この声明を期に7人は抗議のためのハンガーストライキを始めますが、失敗に終わります。オブザーバー紙は、その失敗の理由を次のように報じています。
当時アイルランドのカトリック地区の失業率は50%。’80年12月は史上最悪のクリスマスとも言われたそうです。人々は自分たちのことで精一杯でハンスト問題に関心を持つ余裕さえなかったと。
翌年3月1日、ボビー・サンズ(27歳)がハンガー・ストライキ闘争に入ります。彼は仲間と共に乗っていた自動車のトランクにピストルがあったということだけで、14年の禁固刑を言い渡されていました。彼には妻と幼い息子と両親と妹がいました。これはハンストに入る前に彼が両親に向けて書いた手紙です。
今頃はあなた方はこれから起ころうとしていることにとても気を取り乱していることでしょう。わたしはあなた方を心配させたくはないし、これ以上苦痛を与えたくありません。面会の時にわたしがあなた方に語ったことを必ず理解してもらなければなりません。
またハンガー・ストライキに突入しなければならないことを、ここにいる残りの誰もが喜んではいません。我々はそれがどのような結果になるか、また苦しみがすべての家族によって耐えられねばならないことを十分に認識し、理解しています。しかし我々には他の方法がないのです。━━我々はこの行動を続け、この抗議を終わらせるために、考えられる限りの手段を試みました。
英国人は残酷です。━━彼らはよこしまで厚顔無恥です。彼らは問題の解決をはかっているとか、我々がわからずやだとか言ったり、ほのめかしたりして、本当の状況をおおい隠そうとするのです。しかし実際は彼らは単に獄衣の色や型を変えているだけなのです。刑務所の全体制は相い変らず腐りきっているのです。我々は刑の続く間、このHブロックで生きていけます。そして、前例のない非人道的な行為や拷問、そして結果として生じる狂気にも毅然として立ち向かうことができます。或いは、我々が残してきた唯一のもの━━生命をかかて反撃することもできます。我々はたとえそれが死ぬことを意味していても、闘うことを好むでしょう。
(後略)
同年5月5日0時17分、ハンスト開始以来66日目にボビー・サンズは死亡します。映画『Hunger』は、刑務所における人権を考えるのにふさわしい作品のひとつに違いありません。次の動画は、ボビー・サンズがハンストに入ることを神父に伝えるシーンです。アイルランド英語の難しさが味わえる場面でもあります。
▽『Hunger』予告編
俺は仲間と軽く走ってみた
We’re surrounded by fields of barley,
周りは一面 大麦畑だ
and we dip down into a wee valley where there’s a stream and woods running through it.
畑は谷へ下り 川や森があった。
The woods and stream are out of bounds,
谷はコース外だったから皆でこっそり下った
so naturally, us Belfast boys have to go check them out. Woods and the stream seem just like the Amazon to us.
まさに冒険気分だった
And we come across these young fellas from Cork,
谷にコーク県の少年も
and there’s some banter about our accents,
アクセントが違うから
they could barely talk, we couldn’t understand a word they were saying.
言葉が通じなくてな
We had the idea that they’re lording it over us a bit, you know, looking down on us.
でも俺たちをバカにしているのは感じ取れた
映画『Angela’s Ashes』(アンジェラの灰)でアイルランド英語
プライベートレッスンの面白さとは、先生との出会い。この出会いによって、単に英会話の上達だけでなく、思わぬあらたな人生の扉がひらくことがあるかもしれません。今まで全く興味がなかったことがら、その存在さえしらなかった出来事を、レッスンのフリー・カンバセーションで知る。そんな発見がたくさんあるかもしれません。
興味を持ったテーマは、そのままにせず、とことん追求してみてはいかがでしょうか。そして、そもそも自分はそのテーマに何故興味をもったのか、という根源的な事柄を見つめてみることで、さらに新たなテーマが見つかり、どんどんと広がって行くかもしれません。
映画も同じです。映画の中に登場したたった一つのフレーズが、アイルランドの歴史を学ぶきっかけとなりました。アンジェラの息子、フランクの次の言葉です。
あの子供時代をよく生きのびたものだ
It was, of course, a miserable childhood.
惨めな子供時代
The happy childhood is hardly worth telling.
幸せな子供時代に語る価値などほとんどない
Worse than the ordinary miserable childhood is the miserable Irish childhood.
とりわけ惨めなのは、アイルランドの子供たちで
And worse still is the miserable Irish Catholic childhood.
それも、カトリック教徒の子供たちだ
アイルランドの人々はなぜ貧しかったのか?とりわけアイルランドのカトリック教徒はなぜ惨めな思いをしなければならなかったのか。そんな疑問が、その後アイルランドに関わる映画を30本近く観ることに繋がっていきました。
映画『Felicia’s Journey』(フェリシアの旅)でアイルランド英語
英語は一つではありません。イギリスとアイルランド、隣接する二つの国でもその英語は異なります。イギリス英語か、アイルランド英語か、それともアメリカ英語か。どんな学ぶかは、あなたがどこで何をしたかによって、変わってくるのだと思います。
映画『Felicia’s Journey』では、突然消えた恋人を追って、アイルランドからイギリスのバーミンガムに渡ってきた少女フェリシアの物語です。心細く途方にくれるフェリシアに、ある男性が声をかけます。
同名の原作本には、生まれて初めてイギリスを訪れたフェリシアが、イギリス英語に戸惑う様子が書かれています。
その朝、町に着いてから、人々の言葉を聞き取れないことがあるのにフェリシアは気がついた。これまで親しんできた言葉と、微妙に発音が異なるせいだ。くり返してもらってもまだよく聞き取れないことや、ときにはまったく理解できずにあきらめてしまうこともある。
イギリス英語とアイルランド英語の違いを、この映画で味わってみてはいかがでしょうか。
映画『CAL』(キャル)でアイルランド英語
北アイルランド、アルスターの小さな町で、カトリックの父シャミーと共に食肉解体場で働く19歳の青年キャルは、プロテスタントが支配する同地域で、苦しい日々を送っていました。
二人が住む住居には脅迫のビラも投げ込まれます。
“GET OUT YOU CATHOLIC SCUM OR YOU’LL BURN OUT. UVF”
「カトリックのクズども出て行け UVF(アルスター義勇軍)」
UVFとは、IRAに対抗するためのプロテスタント系の非合法の民兵組織です。北アイルランドでは経済はプロテスタントによって支配され、カトリックの人々はろくな仕事にあるつけなかったようです。次の会話からも、その一端がうかがえます。
運がいいぞ
I don’t have many of your sort.
普通お前達は雇われんのだ
I have many of your sort?
お前達?
Oh, You know what I mean.
わかるだろう
I don’t have anything against Catholic as such.
カトリック派が嫌いではない
That’s the religion I hate.
宗旨が好かん
映画『This must be the place』(きっとここが帰る場所)でアイルランド英語
ダイアン先生(目黒不動)がお勧めのDVDを使った英会話勉強法。
多くの方が最初から字幕無しで映画を観ようとします。ご自身の英語のレベルにもよりますが、その方法では映画のストーリーが分からずに楽しめません。また理解度も深まらずあまり効果があがりません。
ダイアン先生のお薦めの方法は三回見ること。
・2回目は、英語字幕で分からない単語や表現などを調べます。
・3回目は、字幕無しで観て、どこまで理解できるかチェックします。
この方法でやれば、ストーリーが分かるので映画を楽しみながら勉強ができます。
もう一つお薦めなのが、日本語字幕で気になった日本語の表現をメモしておいて、英語ではどんな表現になっているのかチェックする方法です。興味を持った表現なので、英文も記憶に深く刻まれます。
【気になった日本語表現】恐怖心は救ってくれる
when you were my age? Besides playing.
あなたが私の年のころ音楽以外になにしてた?
I pulled heroin.
ヘロインを吸ってた
Nothing syringes?
注射は?
I was afraid of needles.
針が恐いんだ
Fear will always save.
恐怖心はいつも救ってくれる
【気になった日本語表現】相性が悪い
And what are you doing?
お前はなにを
And you, what do you do? At this time? I’m trying to betroth a girl with a sad, sad boy.
目下の仕事は寂しい青年と寂しい娘をカップルにすること
But it’s difficult.
でも簡単じゃない
I suspect that sadness is hardly compatible with the sadness
きっと寂しさと寂しさは相性が悪いんだ
【気になった日本語表現】自分探し
What are you doing? You’re out ‘to look for yourself?
どうしたの?自分探しでもしているの?
No, Jane, I’m not looking for myself, are in New Mexico, not in India.
違うよ。自分探しなんてしていない。インドではないからね。今はニューメキシコだ。
人気ロックスターであるシャイアンは妻とアイルランドのダブリンで半隠遁生活を送っていました。シャイアンの父の死をきっかけに、アメリカでの旅が始まります。アイルランド英語とアメリカ英語を対比しながら、その違いに耳を傾けてください。
映画『Gangs of New York』(ギャング・オブ・ニューヨーク)でアイルランド英語
1820年、ニューヨークのファイブ・ポインツという貧民国は貧しいアイルランドのからの移民が住み着いていました。この地域に住むアイルランド移民は3435世帯、第二位のイタリア移民はわずか416世帯。アメリカ生まれの人々はたった167世帯でした。
映画『Gang of New York』では、仕事を求めてアイルランドからアメリカに移住してきた人々が、南北軍が争う戦闘地に送られてい行く様子が描かれています。「食べていくために人は人をも殺す」。希望を見失ってしまうような貧困が、何故問題なのかとういことがよく分かる事例ではないでしょうか。
夢を抱き移住したアメリカに裏切られ、故郷のダブリンを思う父の気持ちがPaddy’s Lamentation(父の悲しみ)で歌われています。
Paddy’s Lamentation
There is nothing here but war, where the murderin’ cannons roar
And I wish I was at home in dear old Dublin
この国には戦争だけ 耳をつんざく大砲の響き
引き返して戻りたい 懐かしい故郷 ダブリンへ
Well meself and a hundred more, to America sailed o’er
Our fortunes to be made [sic] we were thinkin’
When we got to Yankee land, they shoved a gun into our hands
Saying “Paddy, you must go and fight for Lincoln
“新大陸に渡れば ひと財産 築ける”と
ヤンキー大陸に着いたら 手に銃を押し付けられ
“さあ お前も戦え リンカーンのために”
書籍『Fifty Dead Men Walking』(IRA潜入スパイの告白)でアイルランド英語
実際に起こった出来事を題材にした映画の最初に、次のような文言が表記されることがあります。
Based on a true story.
もしくは、
Inspired by a true story.
”Based on a true story”は、事実をできるだけ忠実に描いた映画、”Inspired by a true story”は、話の核となる部分は事実に基づくも、そこから発想を得て創作した映画のことです。
映画『50 Dead Men Walking』は後者。次のような説明からはじまります。
本作はM.マガートランドの手記(『Fifty Deadmen Walking / IRA潜入逆スパイの告白』)に着想を得たもので、事件や人物等は部分的に手記と異なる
この映画を観たM.マガートランドは次のように言ったそうです。
映画と事実がどのくらい近いかを例えるとしたら、地球と冥王星ぐらいだろう。
つまり実際とは非常に異なるということ。特に、マガートランド氏がカトリックのアイルランド人である彼が、IRAの潜入スパイとして英国の公安警察の為に働くようになったモチベーションが、映画では正確に描かれていないようです。手記にはその動機について、次の様に語っています。
リパブリカンたちが住む地域を力で制圧しようとし、そのほとんどがIRAと無関係な罪もない住民を無差別に殺害し、力で屈服させようとするロイヤリストの中の強行はであるUVF(アルスター義勇団)とUFF(アルスター自由戦士軍)からカトリック教徒たちを守ってくれるIRAを、私は支持した。
だが、カトリック社会の擁護者を自認するIRAがなぜ、いわゆる「チンピラども(フーズ)」に対して膝のさらを撃ち抜くという残酷な仕打ちを行う悪名高い懲罰班を抱え、仲間家の人々を腕ずくで従わせる必要性があるのかが理解できなかった。
十一人の罪のない人々が虐殺され、そのほかに六十三人の老若男女が重傷を負った、1987年11月8日の日曜日にエニスキリンで起きた爆弾テロは、IRAに対する私の信頼を粉々に打ち砕いた。なんの警告も、妥当な理由もなしに、その日曜日に盛大に行われていた英霊記念日を祝うパレードの真っ最中に、IRAは爆弾を爆発させたのだ。
(略)
諜報活動のさいに感じていた後ろめたさは、たった一発の爆弾で雲散霧消してしまい、私は以後、宗派同士の無益な抗争を終結させ、罪のない人々の命を救うためならどんな努力でも傾けようと、改めて決心した。その決心はまた、自分の身の安全について感じていた恐怖心も、たちどころにどこかに追いやってしまったのである。
カトリックの人々を守るはずのIRAが、カトリックの人々を傷つけ理由もなく殺してしまう。暴力で勝ち取ろうとする正義は、結局は多くの矛盾を孕み、出口の見えない争いを続けるだけの結果となってしまうのに違いありません。
映画『Closing The RIng』(あの日の指輪を待つきみへ)でアイルランド英語
映画のタイトルにもなっている『Closing The Ring』は、元々はイギリスの元首相ウィストン・チャーチルが書いた回顧録『The Second World War』(第二次世界大戦)の第五巻のタイトルからとったものだと言われています。
同書に綴られているのは、1943年の中ごろから、ノルマンジー上陸作戦が行われたD-Day、1944年6月6日までの回想録です。チャーチルは回想録の中で次のように語っています。
(ナチスドイツは、周囲を包囲され急襲を受け、ついに孤立した)
『The Second World War』(ウィストン・チャーチル著)
”Closing the ring”は、南はイタリア、東はロシア、そして東はフランスとドイツに対する包囲網が完成したこと、つまり、ドイツを取り囲む輪(リング)がまさにその輪を閉じようとしている ことを表しています。つまり、対戦の火花が最大に燃え上がり激化してゆく時代の始まります。映画では第二次世界大戦によって引き裂かれた若い恋人たちと、二人を結ぶリング(指輪)を巡る物語を描いています。
1941年の北アイルランド・ベルファスト市。ドイツの急襲を受ける防空壕へ逃げ込むアイルランドの人々。しかしアイルランドの人の中にも、プロテスタンとカソリックの対立がありました。右がプロテスタント、左がカソリックと、決して広いとはいえない防空壕で二手に分かれて座っています。プロテスタント側の席に座ろうとしたカトリックのマイケルは牧師から注意されてしまいます。
座ってもいい?
No.
ダメだ
We can’t possibly mix both congregations, Michael.
2つの宗派は同席できんのだ。マイケル。
既にイギリスの統治下にあった北アイルランド。しかし、イギリスがドイツから攻め込まれるのをこれ幸いと、IRAはイギリスの敵国であるドイツを支援したのです。イギリスの苦境はアイルランド人にとってはチャンスというわけです。防空壕の中でも次のような会話が交わされていました。
ドイツ軍に味方しているそうだな。トーマス。
Is he fighting for the Germans?
ドイツ軍の味方?
IRA.You should join us.
IRAだ。君も入れ。
Don’t you dare. Thousands of good Catholic Irishmen serving in the British Army, fighting against Fascism. My son’s one of them. And you… you’re a damned traitor.
やめろ。カトリック教徒は英軍でファシズムと戦っている。私の息子もだ。お前は裏切り者だ。
映画『The Secret of Roan Inish』(フィオナの海)でアイルランド英語
外国の人々と話をしていると、歴史や文化的背景は全く異なっていても、奥深いところでお互いに大切にしている、共通する価値観に気がつき、感動することがあります。家族に対する思い、子どもへの愛、自然をはぐくむ心、将来の夢。これらの事柄は肌や目や髪の色が異なっていても、人として皆が持ち合わせる大切な価値観なのです。
民話にも共通する部分があります。映画『The Secret of Roan Inish』では、アザラシの化身、セルキーの民話が紹介されていました。映画『Ondine』でも同じ神話が登場します。動物が人間に化ける。そして人間と交流する。日本の民話にも人間に姿を変える動物が数多く登場します。つるの恩返し、分福茶釜の狸、狐の嫁入り等など。動物達は、いつも私たち人間の行動を見ていて、何かを伝えなければならないときに人間に姿を変えてやってくる。そんな人々の畏怖の念の表れなのかもしれません。
原作『フィオナの海 – Child of the western isles』 (ロザリー・K・フライ著 矢川澄子訳)の後書きにセルキーの神話が紹介されていました。
ブリグッズ女史の『妖精 Who’s Who』 によれば、セルキーは、ケルトの民話伝承に出てくる妖精のあざらし続で、北の海のわびしい岩礁などに棲みついています。水中で暮らすためにふだんは暑いあざらしの毛皮をまとっていますが、時折その皮表をぬぎすてて直接人間と交わったりもします。もともと人間とは大の仲良しで、男のセルキーが人間の女を口説くこともあれば、女のセルキーが漁師に懸想するといった話もめずらしくはありません。
また女のセルキーはダンスが大好きで、毛皮をぬいで砂浜で踊っているうちに、その女に恋した漁師がこっそり皮衣を隠してしまったという、羽衣伝説そっくりの話ものこっています。衣をなくして水に戻れなくなったセルキーは、そのまま男の妻として人間界にとどまりますが、やがて生まれた子供が大きくなって、ある日ふと見なれぬ毛皮をみつけて母にしらせると、セルキーは大喜びでさっさと家族を捨てて海へ帰っていってしまったということです。
海で幼い孫ジェイミーを失ったおじいさんは、こう語ります。
(海は私たちに恵みを与えてくれるが、その一方で私たちからも奪う)
この言葉が重く圧し掛かります。私たちはこのまま海を汚し続けてよいのでしょうか。生き方を変える時が訪れています。
映画『Divorcing Jack』(ディボーシング・ジャック)でアイルランド英語
アイルランドの英語に触れてみようと、アイルランドに纏わる映画を観続けています。しかし、そのような映画を楽しむためには、アイルランド英語以前にアイルランドの歴史と、その歴史の中で生まれた文化を学ばなければ、本当の意味でアイルランドの映画を楽しめないことに気がつきました。
もっと言うなら、言葉はその国の歴史や文化と切って切り離せないもの。言葉を学ぶことイコール、歴史と文化を学ぶことなのかもしれません。そして、気になったことは徹底的に掘り下げて学んでみる。そうすることで、自分自身の世界が広まり、人生が豊かになるに違いありません。
それにしてもアイルランドの歴史は難しい。彼らの歴史を難しくしている理由はどのようなところにあるのでしょうか。書籍『IRA アイルランド共和国』 (鈴木良平 著)に次のような記述がありました。
アイルランドは英国によって北アイルランドと南のアイルランド共和国とに分断されている。とりわけ北アイルランドは、英本土から分離した国家であると同時に、アイルランド本土の大半を占める南アイルランド共和国からも分離されている。英本土からの入植者のプロテスタント系市民は、英本土の文化の発展からも分離されており、土着のカトリック系市民は、北アイルランドという国家体制内に生存しているが故に、南アイルランドから分離されている。
(中略)
そして、一つの国家の中にカトリックとプロテスタントという二つの宗派、そしてそれにもとづく二つの文化が混在するという点では、アイルランドは複合社会なのである。
(*)書籍『IRA アイルランド共和国』 (鈴木良平 著)より抜粋
映画『Divorcing Jack』の舞台は北アイルランドのベルファスト。主人公のスターキーはこの町の生まれ、プロテスタントの家庭で育ちました。仕事はフリーの新聞記者、コラムニスト。アメリカから市長選挙を取材に来たチャーリー・パーカーのアテンドをしています。ウィスキーを味わうために二人でバーに。目的は、ブッシュ・ウィスキーとブラック・ブッシュ・ウィスキーの違いを理解するためだとのこと。「やっぱりアイルランドで飲むウィスキーは違うな」とチャーリーが行ったところ、スターキーは次のような忠告をします。
It tastes better in Ireland.
アイルランドで飲むウイスキーはうまい
Starkey:
It’s Northern Ireland to you.
ここは北アイルランドだ。
Or Ulster, if you’re a Protestant.
プロテスタントにはアルスターだ。
Six Countries or the North of Ireland if you’re a Catholic.
“北部6県”かアイルランド北部がカトリックの呼び方だ。
And if you’re the British government you call it the Province.
イギリス政府はプロビンスとか呼んでいる。
Parker:
And what do you call it. Mr. Starkey?
それじゃあ君はなんて呼ぶんだ。
Starkey:
I call it home.
故郷だよ。
しかし、もともと原作では次のようなになっていました。より政治的意味合いが濃い表現だと思います。
いろいろな呼び方を聞くだろうが、ここでは北アイルランドと呼ぶことだ。
If you’re a Loyalist you’ll call it Ulster, if you’re a Nationalist you’ll call it the North of Ireland or the Six Countries, if you’re the British Government you call it the Province.
もしロイヤリストならアルスター、ナショナリストならアイルランド北部か北部六県、英国政府ならプロビンスと呼んでいる。
(*)『ジャックと離婚』
(コリン・ベイトマン著)原書より
出生や宗教、立場が異なると地域の呼び名が変わる。しかも、同じ場所を異なった名前で呼ぶ人々が隣り合わせて暮らす社会。北アイルランドの複雑さを少し感じていただけたでしょうか。
※Divorcing Jack (1998) – FULL MOVIE 480p (ENG and PT-BR subtitles)
https://youtu.be/ZulK301CQYE?si=YUCNNRCFxDH5RkEl
映画『Head In The Clouds』(トリコロールに燃えて)でアイルランド英語
ピーター先生(小岩)に、生まれ故郷の思い出についてお訪ねしたところ、次のような答えが返ってきました。
「それは難しいのです。私は今までに21カ国で暮してきました。生れはテキサス州のエルパソ、でも、そこには3日しかおらず、メキシコに行きました。そして3歳のときにイングランドに越しました。そして4歳の時にスコットランドへ。その後アイスランドに住み、英語を学ぶために、オーストラリアに行きました。当時英語が話せなかったのです。オーストラリアで10ヶ月過ごした後、ハワイに越し、一年間住みました。父の仕事の関係でたくさんの国に住みました。フィリピン、マレーシア、シンガポール、ベトナム、インド、パキスタン、南アフリカなど。ですから、生まれ故郷についてお話しするのは難しいのです。」
映画の主人公Guyも、幼少の頃に移住を体験しました。アイルランド共和国のダブリンからイギリスの統治下となった北アイルランドへと。次の場面は1933年のイギリス。Guyはケンブリッジ大学の1年生。19歳だとすると、英愛条約が締結された1922年の時は8歳。その時に父を紛争で亡くしたことになります。
Gilda
Where are you from?
出身は?
Guy
Dublin originally. We moved up north after the Treaty.
ダブリンだけど、英愛条約後は北部へ移った
Gilda
Why was that?
どうして?
Guy
My father was a policeman. And he was killed during the Troubles.
親父が警官で、その時の紛争で殺されたんだ
Gilda
So are you British or Irish?
で、あなたは英国人、それともアイルランド人なの?
Guy
On paper, I’m British. But I don’t believe in countries much.
書類上はイギリス人。でも、国のことはあまり信じてない
Gilda
Nor do I.
私もそうよ
そんなアイデンティティをもっていたGuyですが、スペイン内戦では政府軍側を支援する立場で戦場に赴きます。
Gilda
What’s wrong?
どうしたの
Guy
Things are getting worse in Spain. There are friends of mine there now.
スペインの情勢が悪化している。あそこには友達がいるんだ。
Gilda
And you want to go get yourself killed, too, in someone else’s war?
自分から命を落としに行くわけ。他人の戦争なのに。
Guy
It’s not someone else’s war. It’s as much ours as if it was happening here. We all share the same world.
他人の戦争じゃない。僕たちの戦争でもあるんだ。世界は一つなんだよ。
そして、GuyもGuildaも戦争に巻き込まれてゆきます。すべては、自らが信じる戦争の大義ために。映画の原題”Head in the clouds”は空想。その大義こそがただの空想なのかもしれません。
▽Head In The Clouds Trailer
Guyを演じたスチュアート・タウンゼント(Stuart Townsend)は、役造りの為に脚本を読み込むのはもちろんのこと、スペイン内戦に関しても書物を読みあさったとのこと。その一つにジョージ・オーウェルの『カタロニア讃歌』を上げていました。スペイン内戦の大義とはなんであったのか目を通しておきたい書籍の一つです。
映画『Far and Away』でアイルランド英語
アイルランドの土着の人々はその殆どがカトリック教徒。イギリスやスコットランドの殖民と共に入植してきた新教徒たちに虐げられることになります。
「カトリック教徒が弁護士にも、医師にもなれず、5ポンド以上の価値ある馬を所有することも許されず、すべてのカトリックの司祭の首に賞金がかけられ、ミサに参加した民衆が火あぶりの刑に処された『刑事法の時代』のことを我々アイルランド人はみんなよく知っている。カトリックのミサは山中奥深い所で行われねばならなかった。大飢饉の時(1845年~1949年)、英国人はカトリックから英国教会へと宗派を改めることに同意する者には食物を与えたが、そのような苦しい時代でも民衆はカトリックの教えを守り続けたのである。…愛国主義者たちが過去数百年もの間戦い続け、求めてきたアイルランドの自由の本質的部分はカトリック教徒でありうる自由である。」
(『IRA アイルランド共和国軍』 鈴木良平著より)
映画『Far and Away』に、アイルランドの被支配者であるカトリックが、支配者そうであるプロテスタントに対する感情を伝えるシーンがありました。
These people are my kind of people.
ここにいる連中は皆おれと同じ種類の人間なんだ
And my kind doesn’t like your kind.
俺の種類は君の種類が嫌いだ
ln fact, they hate everything about you.
嫌いというより憎んでいるんだよ
Now for some reason or other l’m willing to lie for you.
おれは君の為に嘘をついたんだかね
Or we could tell them you’re a rich Protestant. Might be sporting.
君は大金持ちのプロテスタントだって言おうか
▽Far and Away trailer
映画『Fifty Dead Men Walking』でアイルランド英語
実在したIRA組織潜入スパイ、マーティン・マガートランド(Martin McGartland)の手記を参考にして作られた映画。舞台は北アイルランドです。
北アイルランドはアルスター地方9州のうち、カトリック住民の多い西部3州を除外して、比較的プロテスタントの多い6州が、1921年ににアイルランド共和国から分離したものです。人口は約150万人。宗教はカトリックが約37%、プロテスタントが53%ほど。一方、アイルランド全土では、カトリック約75%、プロテスタントが約25%と逆転した状態になっています。
アルスター地方には、17世紀になって英国やスコットランドから本格的な殖民が行われました。それとともに「英国教会」とスコットランドの宗教である「長老教会派(カルビン主義)」が入り、土着民衆の信奉する「カトリック教会」と三派が対立することになりました。
英国王チャールズ一世のアイルランドからの搾取に不満を持った土着民衆はその怒りを、入植者である新教徒達に向かってい、1641年に反乱が起こります。それ以降アルスター地方では「プロテスタント対カトリック」の対立の図式が固定化されるようになりました。
映画の冒頭、現在の北アイルランドの状況を次の様に語っています。
Jobs were generally controlled by the Protestants, which meant most of the young Catholic men were unemployed, and angry about it.
働き口の多くはプロテスタント系が牛耳り、カトリック系の若者は職に溢れ怒っていた
しかし、マーティン・マガートランドは、映画の中で彼の宗教観について次のように語っています。
Okay, I’m not saying I don’t believe in God. Like, I do believe in God
神を信じていないわけじゃない 俺なりに信じてるさ
But he’s probably not a Catholic God. Right, I don’t think God’s sitting on a cloud trying to figure out whether He’s Protestant, or Catholic or fucking Buddhist either.
でも、多分彼がカトリックだというわけではないと思う。いいか、神が俺たちをプロテスタントとかカトリックとか、ましてや仏教徒とか区別するかな
Everyone’s got these big opinions about how you should live and who you should love.
どの宗教も どう生きろとか 誰を愛せとか言う
The government, the peelers, the Catholics, the Protestants, the Brits.
政府に警察、カトリックやプロテスタントや英国人の連中が
Any of them is full of it if they think that they know more about you or that they know more about me or of God than anybody else.
君や俺の何を知っているというんだ。神や人を判断できるのか。
▽Fifty Dead Men Walking Trailer
映画『P.S. I Love You』でアイルランド英語
ジュラード・バトラー(Gerard Butler)自身はスコットランド人ですが、この映画ではアイルランド出身のGerryを演じています。アメリカ人の妻のHollyとの夫婦喧嘩でもついつい、アイルランドの表現が出てしまうようです。
次のシーンではbollocksという表現。直訳すると睾丸ですが、これは主に英国で使われる表現で「くだらない」、「ばかばかしい」とか、「大嘘」などの否定的な意味に使われるようです。
例)
1.That Mel Gibson movie was a load of bollocks.
(メル・ギブソンのあの映画はとてもくだらなかった)
2. That Tony Blair is talking bollocks.
(あのトニーブレアは大嘘をついている)
もう一つは、kiss me arse. これは、アイルランドなど人々はmyというところをmeと言う傾向があるようです。
▽『P.S. I Love You』予告編
Holly
Then leave if you wanna go.
あなたが出て行きたいなら出てってよ
Gerry
Don’t push me.
やめろ命令するな
Holly
You wanna leave, just say goodbye.
あなたが出て行きたいなら、出てってよ
Gerry
Oh, that’s me bollocks!
ああ まったく。屁が出る。
Holly
Stop acting bilingual.
訛ってバイリンガルになるのはやめて
Gerry
Oh, kiss me arse.
尻っぺた ナメろ!
Holly
Kiss mine in English!
米語では、”Kiss mine (my arse)”って言うのよ!
映画『In America』(イン・アメリカ/三つの小さな願いごと)でアイルランド英語
アイルランドからニューヨークへ移住した一家。映画監督ジム・シェリダンの半自伝的映画でもあります。三歳の末子のフランキーを不慮の事故が原因で脳腫瘍でなくしてから、家族にはリセットする何かを必要としていました。父のジョニーはニューヨークで役者を目指すこと決心します。時代は1980年のアメリカ。10歳と5歳の娘達は、アイルランドとアメリカの文化の違いにも出会います。
中でも興味深いのはハロウィン・パーティ。そもそもハロウィンはアイルランドが起源ですが、そのアイルランドではアメリカのようなハロウィン・”パーティ”のようなもの、つまりヒーロー物など市販のハロウィン用のコスチュームで子供たちが着飾るような習慣はなかったとそうです。また、アメリカでは子どもが各家庭を訪ね歩き「trick or treat」と叫びますが、アイルランドの「Help the Halloween party」では、そのような決まり文句はありませんでした。また、貰えたとしてもリンゴやナッツなど。キャンディーのようなお菓子が与えられることも殆どなかったとのこと。
ましてや、 「trick or treat」(悪戯されたくなかったらお貸しをちょうだい)というような脅しのニュアンスはアイルランドでは全くなかったそうです。
脚本を務めた実の娘のナオミ・シェリダンも解説で次のように語っています。
「アイルランドではお願いしてリンゴやオレンジなどのフルーツをもらうだけ。だからアメリカ式にあこがれた。キャンディ袋を手に”アメリカ最高”って」
Johnny
Ah, you can’t throw away your prize, best homemade costume.
おい、そんな。捨てちゃだめだろう。手作りコスチューム賞だ。
Christy
They made it up because they pity us.
可哀想に思ってくれたのよ。
Johnny
You got it ‘cause you’re different.
皆と違うからもらえた
Ariel
We don’t want to be different. We want to be the same as everybody else.
違うのなんてやだよ。皆と同じほうがいいもん。
Johnny
Why would youse wanna be the same as everybody else?
なんで皆と同じほうがいいんだ?
Ariel
‘Cause everybody else goes trick-or-treating.
だってみんな「トリックオアトリート」やるもん。
Sarah
What’s that?
何それ?
Ariel
It’s what they do here for Halloween.
アメリカのハロウィーンでやるのよ
Johnny
What do you mean? Like, “Help-the-Halloween” party?
それってハロウィンパーティの手伝いか?
Christy
No, not “Help-the-Halloween” party.
違うわ。ハロウィンパーティの手伝いじゃない。
Ariel
You don’t ask for help in America. You demand it. Trick or treat. You don’t ask. You threaten.
アメリカじゃお願いするんじゃなくて、ねだるの。トリックオアトリートっていいながら脅かすのよ。
ハロウィンの起源は5世紀のアイルランドだといわれています。当時10月31日には、昨年死んだ霊が次の一年間憑依するための人間や動物の身体を捜しに来る日だと信じられていました。このため、人々は悪魔やお化け、魔女の扮装をして、家の中、そして外を叫びながら歩き回りました。こうすることで、霊たちが既にこの村は悪魔達に占領されてしまっていると思わせ人々の憑依を諦めさせる。つまり魔よけのための扮装だったとのことです。
▽In America Trailer
映画『The Crying Game』(クライングゲーム)でアイルランド英語
外国人の方と打ち解けて話をするには、どんな話題が良いのでしょう。お互いに興味のある事柄を見つけることが、一つの良い方法かもしれません。音楽、映画、読書など、自分自身が興味があることであれば多く語ることができるでしょうし、異なる文化的背景を持つ外国の人の方のお話も関心を持って耳を傾けることができるのではないでしょうか。
映画『The Crying Game』の舞台はアイルランド。IRAに所属するファーガスは警察に拘束されている仲間を救出するために、英国の軍人ジョディを交換のための人質として拉致します。ジョディを監視するファーガスは、その優しい性格からいつしかジョディに心を拓いていきます。
そのきっかけとなるのが、アイルランドの伝統的スポーツ、ハーリングの話題です。日本ではあまり馴染みのないスポーツです。「アイルランド式ホッケー」と言ってしまえば、説明は簡単なのですが、実際に試合を見るとその速さ、激しさ、そして競技する選手たちの高度な身体能力など、他に類を見ない内容に驚きます。一方、ジョディは中米のアンティグア島からの移民で、ロンドンでは優秀なクリケットの選手だったとのことです。
FERGUS
And you play cricket?.
クリケットをやるのか?
JODY
Best game in the world.
世界最高の競技さ
FERGUS
Ever see hurling?
ハーリングを見たことあるか?
JODY
That game where a bunch of paddies whack sticks at each other?
アイルランド式ホッケーだろう
FERGUS
Best game in the world.
世界最高の競技さ
JODY
Never.
まさか
FERGUS
The fastest.
動きが早い
JODY
Well, in Antigua cricket’s the black man’s game.
The kids play it from the age of two.
My daddy had me throwing googlies from the age of five.
Then we moved to Tottenham and it was something different.
アンティガではクリケットは黒人のものだ
皆2才から始める
俺は5才でグーグリを投げた
でもトテナムでは違った
FERGUS
How different?
何が?
JODY
Toffs’ game there. But not at home.
気取った奴ばかりで
So when you come to shoot me, Paddy, remember, you’re getting rid of a shit-hot bowler.
だから俺を撃つ時は相手が熱血投手だって事をを忘れるなよ
FERGUS
I’ll bear that in mind.
覚えとこう
FERGUS
And by the way, it’s not Paddy. It’s Fergus.
言ってなかったな。俺の名前はファーガスだ
JODY
Nice to meet you, Fergus.
よろしく ファーガス
FERGUS
My pleasure, Jody.
喜んで ジョディ
事故死してしまったジョディとの約束を果たすために、ファーガスはジョディの恋人のディルに会いに行きます。ディルはファーガスの発音から英国人でないことに気がつきます。
DIL
Someone recommend you?
だれかの推薦?
FERGUS
In a way.
まあね
DIL
Who?
だれ?
FERGUS
Guy I work with.
職場の同僚さ
DIL
What’s his name?
名前は?
FERGUS
Doesn’t the water get to your nails?
爪が濡れるね
DIL
What’s it to you?
だから?
FERGUS
Nothing.
別に
DIL
You American?
米国人?
FERGUS
No.
いや
DIL
Not English.
英国人じゃないわね
FERGUS
No.
ああ
DIL
Scottish?
スコットランド人ね
FERGUS
How’d you guess?
なぜだい
DIL
The accent, I suppose.
発音でわかるわ
FERGUS
And what’s it like?
どんな?
DIL
Like treacle.
糖蜜みたいに甘ったるい
DIL
Nice laugh.
素敵な笑い声
スコットランド人もアイルランド人同様にゲール語にその言葉のルーツを持つ人々。彼らが話す英語にもアイルランドに類似したアクセントが残っています。しかし、アイルランド・スポーツのハーリングは、スコットランドでは若干ルールを変え、名前もシンティーに変わりプレーされているようです。
The Crying Game | Official Trailer (HD) – Forest Whitaker, Stephen Rea | MIRAMAX
映画『Shadow Dancer』でアイルランド英語
Shadow Dancer とはたった一人でダンスを踊る人のこと。ダンスパートナーは影。影を相手に一人孤独に踊る人を意味します。1人でダンスを踊っているのか。それが、この映画の見所でもあります。
80年代後半、一切の妥協を認めない武装闘争を行っていたIRAに、和平交渉へと向かう転換期が訪れます。それは、IRAと関係の深いアイルランドのナショナリズム政党のシン・フェイン党のアダムス議長と、カトリック穏健派政党のSDLP(社会民主労働党)のヒューム党首が対話を始めたことがその始まりだと言われています。
同時代は世界情勢も大きく変わった時代でもありました。89年夏に旧ソ連中心に社会主義陣営が崩壊。このことがIRAの停戦を促してゆきます。銃撃戦や爆弾闘争だけではなんの成果も得られず、サッチャー政権の空軍特殊部隊(SAS)を使った「射殺政策」にIRAは大きな打撃を受け、カダフィー大佐がIRAに送った武器・弾薬を積んだ船が拿捕されてしまうなど、IRAには軍事的にも勝てる見込みがなくなっていました。彼らには「新しい考え」が必要とされていたのです。また、90年11月にサッチャー首相が退陣し、メジャー新政権が誕生したことも時代の流れを変えてゆくきっかけを与えてゆきます。
そんな流れを経て、1993年12月15日、アイルランド政府の首脳陣がロンドンにとび、英首相官邸で両国首脳の共同声明、いわゆる「ダウニング街宣言」が発表されます。
映画『Shadow Dancer』の中でも、そのときのメジャー首相の会見が紹介されています。
THE TAOISEACH AND I HAVE AGREED ON A JOINT DECLARATION ON NORTHERN IRELAND.
アイルランド共和国首相と私は北アイルランドにおける共同宣言に同意しました。
IT MAKES NO COMPROMISE ON STRONGLY HELD PRINCIPLES.
強く誓った原則に妥協はありません
OUR MESSAGE IS CLEAR AND SIMPLE– THERE IS NO FUTURE IN VIOLENCE.
我々のメッセージは明確で単純であります。暴力に未来はありません。
しかし、その共同宣言の内容は一見して矛盾した表現を含む文章になっていました。
2)北アイルランドの帰属は住民多数の意思によって決める
3)IRAが無力闘争を恒久的に放棄するならば、IRAの政治組織であるシン・フェイン党を和平交渉の場に参加させる
問題は2)でした。プロテスタント住民が多数を占める北アイルランドでは、彼らが統一アイルランドに賛成するはずがありませんでした。つまり、「住民多数の意思」は実際はカトリック住民が要求している「統一アイルランド」に賛成に対するプロテスタントによる「拒否権」であるとシン・フェイン党はみなしました。
IRA内部でも、意見が分裂してゆきます。映画ではその様子が描かれています。YOUSEはYouの複数形。アイルランド英語独特の表現です。
Man
WHAT HAPPENED TODAY MAKES US LOOK BAD, UNDERSTAND?
MAKES US LOOK DIVIDED.
あんなことしたらこちらに不利だ。仲間割れに見える。
Man #2
YOUSE WANT A CEASEFIRE.
和解する気だろう
Hughes
WE’RE NOT THERE YET.
まだできない
Gerry
WE’RE NOT THERE, BUT YOUSE ARE.
俺たちはな そっちは?
Hughes
THE BRITS ARE TALKING ABOUT A SERIOUS–
英国側が言うには
Gerry
A DOCUMENT OF SURRENDER. THAT’S WHAT’S ON THE TABLE.
降伏の文章だ。それを差し出した
Hughes
THE BRITS ARE TALKING ABOUT A SERIOUS RESPONSE TO ANY GESTURE WE MAKE.
英国側は容赦しないと言ってきてる
Gerry
THEY’VE NO FUCKING RIGHT! NO FUCKING RIGHT!
降伏なんて恥だ。絶対にできん!
Hughes
THE LEADERSHIP DECIDES, GERRY.
上が決めた
Gerry
YOU DON’T REPRESENT US. YOU NEVER FUCKING HAVE.
お前らはボスじゃない。指図するな
Hughes
THE LEADERSHIP DECIDES, GERRY. NOW COP YOURSELF HOME.FUCKING CHILD.
従えないというなら今すぐ帰れ。お前はガキだ。
IRAの問題は、一度始めた戦いを終わらせることの難しさを表しているような気がします。実際の和平が実現するまでさらに数年、1998年のブレア首相の時代まで時間を要することになるのでした。
▽Shadow Dancer Trailer
映画『The Quiet Man』(静かなる男)でアイルランド英語
アイルランド系アメリカ人の青年ショーンは、両親の故郷であり、子ども時代を過ごしたアイルランドの小さな村イニスフリーを訪ねます。誠実で逞しく性格の良い青年は、たちまち街の人々の人気者となってゆきます。屈強な身体を持ちながら、暴力を振るうことは決して無く、挑発されても争いを避け、その場を静かに後にするだけ。それは、かつてボクサーだった彼が起こした事件が影響していました。
撮影はアイルランド共和国のメイヨー州、ゴールウェイ州などで行われました。映画にはたくさんのアイルランド俳優が登場し、またゲール語が話されるシーンもあります。
ショーンは両親がかつて住んでいた川辺の家を買い戻します。家の修繕をしているところに、プレイフェア夫妻が訪ねてきます。アイルランド英語の特徴の一つはr音を強調して発音すること。特にプレイフェア氏の発音に注意して聞いてみてください。
– Hello.
どうも
– Good morning, Mr Thornton.
お早う ソーントンさん
– How are you, Fa..Doctor…
先生…
– No, no. Mr. And on formal occasions,the Reverend Mr Playfair.
“プレイフェア牧師”で構わないよ
And this is Mrs Playfair.
これが家内だ
Well, Mr Thornton.You are a wonder.
まあ ソーントンさん すばらしいわ
It looks the way all the Irish cottages should…
これこそまさにアイルランド風だわ
and so seldom do.
いいお手本だわ
And only an American would have thought of emerald green.
エメラルド・グリーンはアメリカ人らしいわ
– Red is more durable.
赤は長持ちする
– And the roses! How nice.
それに素敵なバラだこと
You’ll need lots of horse manure. Fertiliser, I mean. Horse is the best.
馬のフンが一番いいわ 肥料としてね
Oh, I brought you a plant.
鉢を持ってきたの
You know, “a primrose by a river’s brink”.
“川脇に咲くサクラ草”よ
“Brim“, not “brink“. The next line ends in “hymn”.
“brink”じゃなくて”brim”だよ。次の行は”him”で韻を踏むんだから
Poets are so silly, aren’t they? Oh, I hope you’re not one, Mr Thornton.
詩はわからないわ まさか 詩がご趣味で?
– Oh no, ma’am, I…
とんでもない
– Thornton.There’s a familiar ring to it.
ソートン…聞いたことがある名前だ
Ring to it… Thornton…
確かどこかで ソーントン
プロテスタントは牧師であっても結婚が許されています。アイルランドでプロテスタントは支配階級に属し、イギリス系アイルランド人であることを示しています。そのプレイフェア牧師が引用したのは、イングランドの詩人ワーズワースの長編詩『Peter Bell: A Tale in Verse』からでした。次の行末はhimで韻を踏むのだから、brinkは当然間違いだろう。brimが正しい、と言っています。引用した原文は次の通りです。
A primrose by a river’s brim
A yellow primrose was to him,
And it was nothing more.
川辺に咲くサクラソウ
黄色いサクラソウは彼にはただのサクラソウ
それ以上のものではない
生き物や自然を全く大切にしようとしないPeter Bellが、ある晩沼に溺れた時に、それまで彼が虐めていたロバに助けられます。その後そのロバと旅をする過程で、生きとし生けるもの達の思っても見なかった力を目の当たりとし、それまでの罪を悔いる物語です。ワーズワスはイギリスを代表する自然観照の詩人と言われているそうです。
(*)関連リンク
Peter Bell: A Tale in Verse
映画『The Magdalene Sisters』(マグダレンの祈り)でアイルランド英語
マグダレン保護施設(Magdalene asylum)のマンダレンは、マグダラのマリアから名付けられました。イエスの妻とも言われるマグダラは、キリスト教の会派によっては「罪の女」とも言われているとのことです。
マグダレン保護施設が最初に作られたのは、1758年にイングランドに、アイルランドには1767年のことでした。娼婦や性的に不品行な未婚の少女を収容し、無報酬の労働をさせることで罪を浄化し更生させることを当初は目的としたそうです。
しかし、18世紀末にはその目的は変容して行きます。収容所で実際に娼婦だったのはほんの一部に過ぎず、性体験さえ無い少女まで収容されていたとの事。未婚の母から生まれた子や無賃乗車のような軽犯罪を犯した少女、なかには実の父が亡くなり母が再婚したために、まるで邪魔者扱いのようにこの施設に送られてしまった子までいたそうです。(2013年2月6日Daily Mailより)
やがて、マグダレン保護施設は無報酬で働く労働者を抱える洗濯場として、アイルランドの社会に組み込まれてゆきます。国によって設立され、管理は教会が行いました。同施設が閉鎖さえる1996年まで3万人が収容されていたと言われ、アイルランドの大手ホテル、軍隊、ギネスビール社までも同施設を利用していたとのこと。収容されていた少女達の人権は奪われ、神父や修道女による性的虐待やいじめが横行していたそうです。
この施設の実態が明らかになったのは、1993年のこと。土地の投機を目的に同施設の一部が売却された際に、その場所から155名の収容者の遺体が発見されたことがきっかけでした。1997年には実際にマグダレン保護施設に収容されていた女性などに証言を収録したドキュメンタリ『Sex in a Cold Climate』が発表されました。
Brigid Young, Phyllis Valentineは、15歳の時に「綺麗過ぎて男性と間違いを起こす可能性がある」という孤児院の修道女の判断により同施設に送られたそうです。Christina Mulgahyは婚外子を出産したこと、 Martha Cooneyはいとこにレイプされてしまったことで、それぞれマグダレン保護施設に送られてしまいます。
映画『The Magdalene Sisters』で主演を務めたAnne-Marie Duffさんは、両親がアイランドからの移民、Nora Jane Nooneはアイルランド生まれ、Dorothy Duffyは北アイルランドの生まれです。彼女達の心からの叫びをアイルランド英語で是非じっくりと聞き取ってみてください。
映画『Waking Ned』(ウェイクアップ!ネッド)でアイルランド英語
世界中を旅したあるビジネスマンに、一番お気に入りの国はどこかと訪ねところ「アイルランド」という応えが帰ってきました。アイルランドの名も無いある田舎町を旅したときに、ぶらりと立ち寄ったパブでの体験を楽しそうに話してくれました。見ず知らずにアジア人の自分に、アイルランドの人々はどれほど温かく接してくれたか。飾り気の無い人懐っこさがどれほど心地よく、どれほど会話とお酒が進んだことか。アイルランドの人々の心に触れた旅だったようです。
アイルランドの映画を数多く観ていると、人々の温かさに加えもう一つ気がつくのは、自然の美しさ、そしてその表裏一体にある自然の厳しさです。もしかしたら、自然が厳しければ厳しいほど、人々は寄り添い、助け合って生きる術を見出すものなのかもしれません。その逆に、居住地が便利で済み易く、お金さえあれば会的に生活できる土地であれば、人と人との関係は希薄になり、助け合って生きる必要を感じなくなってしまうのかもしれません。
映画『Waking Ned』はTullymoreというアイルランドの架空の村が舞台。実際はマン島のクレグナッシュで撮影されたとのことで、本当の意味ではアイルランドではありませんが、人々が抱くアイルランドのイメージに上手く重なっているように思えます。
Is there a greater twist of fate, Annie?
運命ってのは皮肉なもんだな、アニー
To win half a million, and the next minute die from the shock of it. 50
万も手にしたのに、ショック死していまうとは
God rest him, the poor fella.
哀れなあいつに、永遠の安息を
Ned,the sweetest man in the world.
ネッドは誰より優しい人だった
They say money changes a man, Jackie.
“金は人を変える”って
And there’s no greater change than moving him from life into death.
“生から死へ” これ以上の変化はないわ
優しいのはネッドだけではありませんでした。「足るを知る」村人たちが自分のためではなく、村人みんなの幸せの為に協力し合います。ネッドの死を通して古くからの友の友情を感じ、お金よりも大切なものが家族であることに気がついて行きます。
映画『Intermission』(ダブリン上等!)でアイルランド英語
世界で最もセクシーな英語はアイルランドアクセントの英語だそうです。そして、そのアイルランド英語を話す代表的な有名人は、映画俳優のコーリン・ファレル。では、かれはどんな英語を話すのでしょう。映画『Intermission』のオープニングシーンを見てみましょう。
アイルランド英語の特徴の一つは母音の変化、例えば”night” “like” “I” は、”oil”の”oi”のように発音します。次の動画でも、同様の傾向があるようです。
time ⇒ toim (トイム)
life ⇒ loif (ロイフ)
right ⇒ roight (ロイット)
レストランのウエイトレスをコーリン・ファレルが口説いているように見えるこの場面ですが、実は。。。
Oh, yeah. I’ve been round the block.
本当さ。俺は世間を知っている。
Really?
そうなの?
– Believe it.
信じろよ
Sowed me oats.
女も履き捨てるいて
Acted the rip, the rapscallion.
ヤベエこともかなりやってきた
Ran wild, ran free.
やりたい放題やってきたんだ
Of course, this all back in the days of yore.
もちろん、ガキの頃のはなしだけどな
– Right. You wouldn’t think it to look at you.
ふうん、そんなふうには見えないけどね
Yeah, well, time comes, you have to leave behind the old hell-raising.
でも、まあ、もうそろそろヤンチャからは卒業して、
Take some responsibility for your life.Prepare the groundwork.
まっとうな人生を送るために備えるぜ
– How do you do that?
どうやって?
Well, to begin with, I’d say by nest-building.
まずは、巣を作らなきゃなあ
You have to find an abode you feel secure in.
どっかにいい家を見つけてよ
Then you have to furnish that abode
家具を買い揃えるんだ
procure the necessaries: Furniture, etc.
他にも要る物はすべて揃えるんだ
Kitchen utensils, your wok…
キッチン用品もだ。中華鍋や
your juicers.
ジューサーもだ
– What about love?
恋人は?
Well, love’s not something you can plan for, is it?
それはまた別物だろう
Look all you like as long as you like but it’s only when you let your guard down…
まずは心のガードを外さないと。
– When you least expect…
思ってもいなかった時に。。。
That you find someone.
相手が見つかる
Take myself for example.
例えばこの俺と
You ever see me before?
前に会ったことは?
No.
ないわ
I’ve just ambled in, right? But who’s to say by tomorrow, you and me couldn’t…
そう俺は単なる客。だが二人が恋に落ちる可能性がゼロだとは言い切れない
and I’m not coming on to you or anything but who’s to say we couldn’t be head-over-heels? Dancing in the Green?
絶対に結ばれないなんてことは、誰にも言えない
Nobody.
だれにも
– Right.
そうさ
When there’s something there…
男と女は
– Chemistry.
相性よ
Right. Who knows where the sparks will lead?
そう。突然火花が散る。その先にあるのは、
A fella like myself, a stranger could just be a bit of fun in the sack,
俺みたいな赤の他人だった男とのセックス
no more than that.
それ以外の何でもない
Or, and it’s not that crazy…
でも、おれが求めているのは
your soul mate.
心の友だ
Yeah, you’ve got a point.
ええ、分かるわ
On the other hand,
でも、ひょっとしたら
I could just be a thief or something.
おれは泥棒かもしれない
What do you mean?
どういう意味?
Some villain, just waiting for my chance to…
今までチャンスを狙ってたんだよ
smack your jaw and rob the register while the place is empty.
いつぶっ飛ばしてレジの金をいただこうかって
But this is the thing of it, see?
すこしは勉強になったろう
You just never know…
人生ってのは
what’s gonna happen.
先が見えねえ
(*)語句説明
have been around the block:《口語》 (いろいろな所で)多くの経験をしている; 世慣れている.
sow one’s (wild) oats:若気の至りから道楽をする.
yore:昔
head over heels:〔…に〕深くはまりこんで、ぞっこんほれこむ
villain:悪党
映画『Breakfast on Pluto』(プルートで朝食を)でアイルランド英語
パトリックはヒッチハイクで出会ったバンドのメンバーと旅をします。途中で英国の警官に車を止められます。
“Thirteen of your lot shot in Derry.What do you know about that? Maybe you’d know about thirteen less to deal with.”
(デリーで13人が撃たれて死んだ。仲間が13人減ったな。)
デリーで13人が射殺。この台詞から、これは「流血の日曜日事件」のことを言っていることがわかります。時代は1972年。
パトリックは男性、でも子どもの頃から心は女性でした。『プルート(冥王星)で朝食を』という不思議なタイトルはどのような意味があるのでしょうか。偶然であったライダーのリーダーは、ケルトの神話と共に、彼の行き方について語るシーンにそのヒントがあるようです。
Druids, man. We’re like the Border Knights. Knew all about the space-time continuum.
古代ケルトの偉人達(ドルイド)は時空の謎を知り尽くしていた。
Gotta get behind the surface.
上っ面は関係ない
Border Knights don’t allow them. Jams the astral highway.
国境の騎士にはハイウェイがすべてだ
So why do you call yourselves the Border Knights?
どうしてあんた達、国境の騎士なわけ?
Because the only border that matters is the one between what’s in front and what you’ve left behind.
俺たちがこだわるのは、後ろにあるものと前にあるものの境目だけだ。
When I ride my hog, you think I’m riding the road? No way, man.
俺はバイクで道を走っているんじゃない。
I’m traveling from the past into the future with a druid at my back.
俺は過去から未来に向かってケルトの偉人と旅している
-Druid man or druid woman?
その人は男、女?
-That doesn’t matter.What matters is the journey.You know where it goes, baby?
関係ない。大事なのは旅だ。どこに行くと思う。
-Where?
どこ?
We’ll visit the stars and journey to Mars
星巡りをして、火星に行ってから
Finding our breakfast On Pluto
プルート(冥王星)で朝食をとる。
Pluto?
プルート?
Pluto.
冥王星よ
No, not Pluto the dog. Pluto the planet.
犬のプルートじゃない。冥王星だ。
Named by Percival Lowell and William H. Pickering after the invisible king of the underworld.
天文学者のP.ローウェルとW.ピカリングがプルートと名づけた。神話の”冥界の王”から取ったそうだ。
You think about that.
覚えておけよ。
映画『In Bruges』(ヒットマンズ・レクイエム)でアイルランド英語
ベルギーのブルッへが舞台。コリン・ファレルは、自らの過ちを悔いるヒッ トマンズ役。次の仕事の支持を待つため、ブルッへで2週間滞在をすることになりました。ブルッへはまるでおとぎ話の中から抜け出したような街。運河や古い建物、石畳の道、ゴシック建築があって、白鳥がいて。”死ぬ前に”一度は見ておきたい街。ところが、そんな言葉が現実となってしまいます。
興味深いのは彼のアイルランド英語だけでなく、アメリカ人英語、イギリ ス人英語、ベルギー人英語、そしてカナダ人英語なども比較しながら楽しめそうです。
映画のところどころに会話相手の国籍を確かめる台詞が登場します。共通しているのは、相手の下品な言葉遣いした際に、訪ねている事。国による英語の違いは、発音やイントネーションだけではなく、言葉遣いの下品さにも現れてしまっているのかもしれません。
例えば次のような会話です。
(うるさい、クソ野郎!)
American, ain’ it?
(アメリカ人さ)
---
You from the States?
(アメリカ人か?)
Yep. But don’t hold it against me.
(ああ、責めないでくれ)
I’ll try not to. Just try not to say anything to loud or crass.
(努力する。あんたも下品なことを言うなよ)
---
That’s him. That’s the motherfucker.
(そいつだ!その野郎だ)
Canadian?
(カナダ人か?)
より直接的な表現を使う北米の人々と、より間接的な言い回しを好む欧州の人々の言葉に対する感覚の違いなのかもしれません。様々な国籍の先生のレッスンを受講して、話題にされてみてはいかがでしょうか。
映画『Ondine』(オンディーヌ 海辺の恋人)でアイルランド英語
アイルランド南端の小さな海辺の町キャッスルタウンベアが舞台。ある日、漁師役のコリン・ファレルは、網に若く美しい女性がかかっていることを発見します。彼女はスコットランドの神話に登場するアザラシの化身セルキー(Selkie)に違いないと彼の娘は言います。
市場調査会社OnePollが女性5000人に対して行った調査によれば、世界で一番セクシーな英語のアクセントはアイルランド人とのこと。ただ、これにはコリン・ファレル自身の魅力が大きく影響しているようです。
そもそもアイルランド英語とはどのような英語なのでしょうか。ロレット先生(西大井)が次のような体験をシェアしてくれました。
「先日アイリッシュパブに行ったのですが、アイルランドから日本に来てまだ一週間程しか経っていないというバーテンダーと話しをしました。ところが、彼の言っていることが40%位しか聞き取れないのです。発音の違いもありますが、それ以上にイントネーションが違うのです。お互い英語のネイティブ・スピーカーであっても、イントネーションが違うと理解できないのです。」
どうやら、アイルランド英語はネイティブ・スピーカーにとっても聞き取りが難しい英語のようです。しかし、その難しい英語もコリン・ファレルの魅力が解決してくれそうです。彼のセクシーな英語を、耳元で繰り返し繰り返しヒヤリングしてみませんか。
▽trailerのトランスクリプトです。予告編では、動画が切り合わせているのと同じように、同じ人のひとつ台詞でも、途中が省略されるなどして、切り合わされている部分があるため、実際の映画の台詞とは若干ことなることがあります。下記のトランスクリプトは、trailerにあわせています。
– Once upon a time…
Annie:
– Does it always have to be “Once upon a time”?
Syracuse:
– There was a fisherman. And he was pulling in his nets…
Annie:
– Was she a mermaid?
Syracuse:
– No.
Annie:
– Was she a selkie, then?
Syracuse:
– What’s a selkie?
Annie:
– She comes out of the sea. Lives on land
Syracuse:
– My name’s Syracuse. And you’ve been sober for two years. This is where they all clap
The priest:
– Did you see that in the movies?
The fisherman:
– There’s a girl here, Circus.
Syracuse:
– Is that illegal?
The fisherman:
– No, but… it’s unusual.
Syracuse:
– Yeah, I stole. Some ladies’ clothes.
The priest:
– I don’t like this at all
Syracuse:
– They were for this girl I met.
Ondine:
– Thank you.
Annie:
– So, what’s the story?
Syracuse:
– She sings to the fishes and he catches them. She brings me luck…
Annie:
– That would be Selk.
Syracuse:
– How long are you staying?
Ondine:
– Depends on you.
Syracuse:
– Depends on me, you can stay forever.
Ondine:
– I’m Ondine.
Syracuse:
– What’s it mean?
Ondine:
– She came from the water.
Annie:
– I’m examining you for webs.
Annie:
– Selkie women stay for seven years… Unless her selkie husband claims her back.
Maura:
– What kind of stories are you spinning?
Syracuse:
– I’m afraid, Father…
Syracuse:
– Misery is easy. Happiness you have to work at.
Maura:
– Who is this woman, Annie?
Syracuse:
– You’re my sobriety buddy.
– We don’t belong here
Maura:
– Give it here…
Annie:
– I don’t want you to go.
Ondine:
– Annie!
Syracuse:
– I know something’s going to happen, something wonderful. Or terrible.
Syracuse:
– She was drowned
Ondine:
– You brought me back to life.
Syracuse:
– Ondine!
セルキーについては、『フィオナの海 – Child of the western isles』 (ロザリー・K・フライ著 矢川澄子訳)の後書きにその神話が紹介されています。ご興味のある方はあわせてお読みください。
映画『In the Name of The Father』(父の祈りを)でアイルランド英語
1974年10月5日、IRA暫定派によって、ロンドンから約50キロ離れたギルドフォードでパブが爆破されます。アイルランド人ジェリー・コンロン(Gerry Conlon)とその友人は無実の罪で逮捕をされ、拷問まがいの取り調べて自白をされられてしまいます。しかもジェリーの父や叔母一家も同様に逮捕されてしまいます。
ある日、IRAの兵士が刑務所に送られ、例の爆破事件は自分が行ったもの。警察はその事実を知りながら隠蔽しているのだと告げます。ジェリーは獄中で亡くなってしまった父の遺志を継ぎ、自らの汚名を晴らすために再審請求を行います。
この映画を通して痛感するのは公正な裁判を受ける権利、情報開示の大切さ、差別の撤廃。そして、これは北アイルランドでの出来事ではなく、冤罪等による不当な裁きは日本でも同様に起こっている出来事であるということ。遠い国の出来事では決してないというこの映画は気付かせてくれます。
忘れてはいけないのはこれが実話であるといういこと。次の動画では、ジェリー・コンロン自身が彼の身におこったことを語っています。無罪の罪で15年刑務所で人生を送らなければならなかった彼の心の底からの訴えに、彼のアイルランド英語と共に耳を傾けてください。
映画『The Boxer』(ボクサー)でアイルランド映画
1990年代半ば、IRAは停戦に向けてアイルランド、イギリス両政府と対話を始めていました。米国からクリントン大統領がアイルランドを訪れ、和平交渉に弾みをつけようとします。
1995年11月30日に北アイルランドのベルファストを訪れ大歓迎を受けます。彼は母方を通じて北アイルランドにルーツを持っていましたし、現役の米大統領が北アイルランドを訪問するのは初めてのことでした。
翌12月1日、クリントン大統領はダブリンを訪れ、集まった約10万人の群集に演説した。それはローマ法王、ケネディ大統領(南共和国にルーツを持つ)の訪問以来の大歓迎だったそうです。映画『The Boxer』はクリントン大統領のその時のスピーチで始まります。
“The sun is shining and I hope it’s a good omen for peace in Northern Ireland”
(太陽が北アイルランドに平和の光を注ぐことを)
12月8日、IRAの武装解除に関する見解がダブリンで発表されました。
(中略)
メージャー英首相が二本立ての審議を発表する記者会見の席で、IRAの武装解除のための諸前提を取り除く手段として、その二本立て審議を受け取ることを拒否したことを、我々は見てきた。また、北六州のストーモント旧議会を復活させたいというユニオシストの提案を、メージャー首相が積極的に奨励していることも明白である。
(中略)
IRAの武装解除に関する(表玄関からの、あるいは裏口からの)ばかげた要求に、IRAが応じることはまったくありえない。
P・オニール
IRA広報部
ダブリン、
“It is a matter of profound regret that rather than fulfilling its responsibilities, the British government, presented with this historic opportunity, has sought only to frustrate movement into inclusive negotiations and has erected an absolute barrier to progress with its untenable and unattainable demand for an IRA surrender.
“We noted that British Prime Minister, John Major, at the press conference to announce the twin track approach, actually rejected it as a means of removing preconditions. It is also obvious that Mr Major is actively encouraging the unionist proposition of a return to Stormont and actively reinforces the unionist leadership’s refusal to engage meaningfully in the search for a negotiated settlement.
“As we stated on September 29th, there is no question of Oglaigh na hEireann meeting the ludicrous demand for a surrender of IRA weapons either through the front or the back doors.
P.O’Neill,
Irish Republican
Publicity Bureau,
Dublin
和平への道は、まだまだ沢山の生涯があることが伝わっている声明です。映画『The Boxer』は、北アイルランドが新しい扉を開けようとしていた時代に生きる人々の様々な葛藤、戸惑い、そして信念を描いた映画です。
映画『Five Minutes of Heaven』(レクイエム)でアイルランド英語
1975年、北アイルランドでは英国の流れを引いたプロテスタントと、アイルランドの市民の大半を占めるカトリックは、大いに反駁しあっていました。爆弾テロや殺人は日常的な出来事になっていました。
カトリック組織に武力抗争を挑むアルスター義勇軍のメンバーである17歳のアリスター・リトルは報復テロとしてカトリック教徒である19歳のジム・グリフィンを殺害します。しかし、その現場を8歳になる弟ジョーに目撃されてしまいます。
33年後、アリスターとジョーがテレビ番組の企画で対談をすることになります。ジョーは復讐を決意し、アリスターの殺害を計画しますが、直前になって撮影を拒否し、その場を後にしてしまいます。
恨みが恨みを生む、復讐が復讐を生む、怒りのチェーンを断ち切る方法はないのでしょうか。アリスターは、ジョーに会いこの争いを終わらせるための話し合いをしようとします。
We were told that a Protestant worker had been threatened and if he didn’t leave the yard, he’d be shot.
I asked who the Catholics were working there.
Somebody said Jim Griffin.
I said, “Tell him if he doesn’t leave, I’ll shoot him.”
I knew he was leaving anyway, but it didn’t make a difference.
It was my decision. I was up for anything, to kill anyone.
I wanted to be someone.
I wanted to walk into the bar a man.
Walk in ten foot tall and hear the applause from the only people that mattered to me then.
And I heard it. And it was good.
Get rid of me, Joe so that when you wake up in the morning, it’s not me’s in your head, it’s your daughters.
Don’t give them me.
Go home and tell them that you’ve killed me off.
That I’m gone, forever.
I’m nothing. Nothing.
Go home and tell them that and live your life for them.
私はベルファストに帰り二度と来ない。だから、すべて話す。
プロテスタントの労働者が出て行けと脅された
さもないと殺すと
こっちも黙っていられない
それでグリフィンを標的に
出て行かないと殺すと 私は脅した
引っ越すのは知っていたのに
私は決断した
誰でも殺す覚悟だった
何者かになりたかった
男としてバーに行きたかった
大威張りで中に入り、先輩達から賞賛され
最高の気分だった
私のことは忘れろ
目覚めた時に娘のことを考えろ
引きずるな
私を倒したと娘に言え
永遠に消えた 何でもないと 何でもないと
これからは娘の為に生きてくれ
「わたしのような人間に復讐をすることに心を奪われるな。愛する家族、娘のために生きてくれ」と伝えます。
人を憎むことは、それだけで多くのエネルギーを奪われます。そしてそのことはその人自身をより苦しめることになるのでしょう。赦すこと、心を愛で満たすこと。それが復讐の連鎖を断ち切る一つのヒントなのかもしれません。
映画『Bloody Sunday』(ブラディ・サンデー)でアイルランド英語
1972年1月30日、北アイルランドのデリー市で起こった「流血の日曜日」を扱った映画です。
当時、北アイルランドのカトリックの人々は、英国政府から様々な差別的な政策に苦しんでいました。公営住宅権の不平等な割り当てと選挙権、そしてインターンメント(裁判なき拘禁制度)の導入など。
インターメントには裁判がありません。ということは拘禁理由が公にされないため、いつまで監禁されるのかわず、無期限に監禁される可能性もありました。それは、憲法も基本的人権も一切無視した、世にも恐ろしい法律でした。令状なしの家宅捜査、集会の禁止なども治安当局の意のままでした。
このような不平等に抗議するデモも当時は禁じられていました。しかし、その禁止令にもかかわらずデリーで72年1月30日の日曜日に、公民権グループが反インターメントの行進を呼びかけたのです。英軍はその行進をカトリックの居住区に封じこめ、さらにカトリック住民の大量逮捕に踏みきる計画をもって待ちかまえていました。
行進は英軍に阻止され前へ進めず、途中から若者の投石などによって、暴動となりました。英軍はCSガス、ゴム弾、放水車などで応戦しました。その時、英軍は、突然、なんの警告もなしに、群集めがけて発砲しはじめました。発砲は30分間ほど続き、13人の民衆が死に、16人が負傷しました。最初の英軍の説明は、発砲はIRAの銃撃に応じた自衛的なものという見解でしたが、IRAの銃撃を見た者も、銃声を聞いた者も誰一人としていませんでした。それに英兵は誰も撃たれていませんでした。
射殺された者は若者が多く(7人が10代)、彼らはIRAのガンマンでも兵士でもありませんでした。それは1916年のイースター蜂起直後の16人の処刑と同じような衝撃をアイルランド国民に与えたそうです。
この事件の発生から四半世紀経った1998年に、ブレア政権下で新たに事件の調査が開始されることになりました。この調査では兵士610人、一般市民729人、報道関係者30人、政府関係者や政治家、軍上層部ら20人、北アイルランド警察の警察官53人に聞き取りが行なわれた。
その調書はこちらで読むことができます。
‘Bloody Sunday’, Derry 30 January 1972
– Guide to the Hearings of The Bloody Sunday Inquiry (1998-2005)
そしてこの調査がこの映画を生むことに繋がっています。30年以上たって少しずつ明らかになる嘘と真実。政府が秘密としていた情報が公開されることの大切さを、この悲惨な事件から学ぶことができます。
(*)参考リンク
Bloody Sunday(BBC)
(*)参考文献
IRA(アイルランド共和国軍)-アイルランドのナショナリズム
映画『The Dead』(ザ・デッド/「ダブリン市民」)でアイルランド英語
「英語を学びたい」、その動機は人それぞれ。旅行のため、仕事のため、趣味のため。そして、英文学を楽しみたいから。そう思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
映画『The Dead』は、アイルランドを代表する国際的作家、ジェイムス・ジョイス(James Joyce)の作品『ダブリナーズ』(Dubliners)の中の「死せるものたち」(The Dead)を、ジョン・ヒューストン監督(John Huston)が映像化したものです。
彼はこの映画の公開を待たずして亡くなりました。車椅子に座り、鼻には酸素注入器の管を貼り付けて映画制作に取り組んでいたとの事です。主演を務めたのは娘のアンジェリカ・ヒューストン(Anjelica Huston: 写真)でした。
自分自身の死期を悟っていたであろう彼が、最期に選んだ作品がThe Deadでした。原作を忠実に描きながらも、彼自身の遺言としてのメッセージを映画の中に込めていたりはしていないでしょうか。もしかしたら、原作と映画の違いに着目することで、彼が最も伝えたかったこと、彼自身の声が聞こえてくる来るかもしれません。
映画では原作にはない人物が登場します。グレース氏です。彼は、これもまた原作には記載されていなかった詩を朗読します。『破られた誓い』(Broken Vows)と映画の中で紹介されているこの詩は、実際のタイトルは 『Donal Og』(Young Daniel)。8世紀にゲール語で書かれた詩を、アイルランドの劇作家・詩人であるオーガスタ・グレゴリー夫人(Lady Isabella Augusta Gregory)が20世紀頭に英訳したものです。ゲール語の世界を、英語で甦らせたとして高く評価されているようです。
Donal Og
It is late last night the dog was speaking of you;
the snipe was speaking of you in her deep marsh.
It is you are the lonely bird through the woods;
and that you may be without a mate until you find me.
You promised me, and you said a lie to me,
that you would be before me where the sheep are flocked;
I gave a whistle and three hundred cries to you,
and I found nothing there but a bleating lamb.
You promised me a thing that was hard for you,
a ship of gold under a silver mast;
twelve towns with a market in all of them,
and a fine white court by the side of the sea.
You promised me a thing that is not possible,
that you would give me gloves of the skin of a fish;
that you would give me shoes of the skin of a bird;
and a suit of the dearest silk in Ireland.
(*)映画では次の二節は略されています。
(When I go by myself to the Well of Loneliness,
I sit down and I go through my trouble;
when I see the world and do not see my boy,
he that has an amber shade in his hair.
It was on that Sunday I gave my love to you;
the Sunday that is last before Easter Sunday
and myself on my knees reading the Passion;
and my two eyes giving love to you for ever.)
My mother has said to me not to be talking with you today,
or tomorrow, or on the Sunday;
it was a bad time she took for telling me that;
it was shutting the door after the house was robbed.)
(*)映画では次の一説は略されています。
(My heart is as black as the blackness of the sloe,
or as the black coal that is on the smith’s forge;
or as the sole of a shoe left in white halls;
it was you put that darkness over my life.)
You have taken the east from me, you have taken the west from me;
you have taken what is before me and what is behind me;
you have taken the moon, you have taken the sun from me;
and my fear is great that you have taken God from me!
破られた誓い
昨夜 夜もふけた頃 犬があなたを呼び
沼のしぎも あなたの名を呼んでいた
森をさまよう 孤独な鳥は あなた
私を探し当てるまで 連れ添うものは現れないだろう
あなたは 偽りの言葉を誓った
羊の群れが集まった時 私の前に現れると
私は口笛を吹き 名を呼んだ
だがそれに答えたのは 子羊の泣き声
あなたは約束した ほかにないものを贈ろうと
銀のマストを立てた黄金の船
マーケットを持った12の街
青い海をのぞむまばゆい白亜の宮殿
あなたは約束した この世にないものを
魚の皮でつくった 手袋を君にあげると
小鳥の皮でつくった靴と
アイルランド製の絹の服をあげると
母は言った あの男と話をしてはいけないよ
今日はもちろん 明日も 日曜でさえも
だが 母の忠告は手遅れだった
盗っ人が入ってから ドアを閉めるようなもの
あなたは私から 東を奪い去り 私から西を 奪い去った
あなたは私の前にあるものと 私の背後にあるものを奪った
あなたは私から月と 太陽を奪い去ってしまった
そして この胸の恐れおののく あなたは私から 神さえを奪ってしまった
(*)日本語訳はビデオ『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』から
母に反対をされ、結ばれなかった若い2人の歌。少年が愛する少女に贈った数々の言葉、愛の誓いが成就しなかったことが伝わってくる作品です。原作には無かったこの詩は、実はこの映画のテーマをより深く理解するためのひとつ物語として心に残ります。
原作では、登場するアイルランドの古い民謡『The Lass Of Aughrim(オグリムの娘)』が歌われています。若い娘がグレゴリー卿の城を訪ねます。腕には彼との間に生まれた幼子を抱いて。しかし、彼の母は彼女の城に入れず、追い返してしまいます。悲しみにくれた娘は幼子と共に海で命を絶ってしまうという内容です。母の反対により結ばれなかった若い2人、そしてそのことが招いた死。『ザ・デッド』のテーマはまさにこの曲の中に歌われています。
そして、先の 『Donal Og』で歌われた愛の誓いは、この2人の愛の深さを連想させる役割を映画の中では果たしています。
The Lass Of Aughrim
If you’ll be the lass of Aughrim
As I’ll take you to be
Tell me that first token
That passed between you and me
Oh don’t you remember
That night on yon lean hill
When we both met together
I am sorry now to tell
Oh the rain falls on my yellow locks
And the dew soaks my skin;
My babe lies cold in my arms;
Lord Gregory, let me in
Oh the rain falls on my heavy locks
And the dew soaks my skin;
My babe lies cold in my arms;
But none will let me in
オーグリムの乙女
あなたは オーグリムの美しい乙女
もしわたしの目に 狂いがなければ
覚えているだろうか あなたと交わした
初めての愛のしるしを
あなたは今も覚えているだろうか
あの丘の上で過ごした 夜のことを
あなたと二人きり ひとときを過ごした
いま思えば 悲しい運命のひとときを
冷たい雨を降りそそぐ
重くぬれた わたしの髪に
地をおおう冷たい露は
わたしの肌をぬらす
幼な子はわたしの腕の中で 冷たく横たわっている
どの家も門を閉ざして 入れてはくれぬ
幼な子はわたしの腕の中で 冷たく横たわっている
どの家も門を閉ざして入れてはくれぬ
(*)日本語訳はビデオ『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』から
難しいとも言われるジョイスの文学を、映画監督のジョン・ヒューストンがより分かりやすく映像化してくれています。彼自身はアメリカの生まれですが、父はスコットランド系アイルランド人。アイルランドは彼自身のルーツと感じていたのかもしれません。
映画『The Dead』通して、アイルランド文化に対する敬意と表すと共に、それをより多くの人々の心に奥に届けようとしたのではないでしょうか。それが、ジョイスの文学であり、グレゴリー夫人の詩であり、古いアイルランド民謡であったのでしょう。
さて、日本人が敬意を表する日本の文化とは何でしょう。日本人のあなたが最期に次の世界に遺したいとおもう文学、歌とは何でしょうか?アイルランドの文化に触れながら、自国の文化を思い返すきっかけとなりました。
映画『Michael Collins』(マイケル・コリンズ)でアイルランド英語
映画『Michael Collins』はイースター蜂起の場面からはじまります。イースター蜂起とはイギリスの支配を終わらせ、アイルランド共和国を樹立する目的でアイルランド共和主義者たちが引き起こした武装蜂起です。
この武装蜂起に対して、当初ダブリンの一般市民はたいへん冷ややかな目で見ていました。多くの人々がイギリスの支配なしでは生活が立ち行かなくなっていることを感じていたからでした。
しかし、そのような人々の態度を一変させてしまう出来事がおこりました。イースター蜂起後、イギリスは即座に指導者を逮捕し、裁判を開くことも無く、首謀者を含む16人を事件後2週間で次々と射殺したのでした。
指導者の1人であったジェームズ・コノリー(James Connolly)は逮捕時には立って歩けないほどの重傷を負っており、処刑時には椅子に縛り付けたまま銃殺されました。この大量処刑は、それまで反乱軍に冷淡であったダブリン市民の感情は急速に逆転し、イギリス政府のやり方を避難するようになりました。
映画『Michael Collins』の中でもこの処刑のシーンが描かれています。実際に処刑が行われたキルメイナム刑務所で撮影が行われています。イギリス政府の性急な措置は、さらにその後のアイルランドとの闘いを招いてしまいます。
アイルランドの歴史を学んで行く過程で、たびたび日本の歴史と重ね合わせて考える機会に出会います。もしも、連合国軍占領下の日本において、連合国軍が異なった判断に基づき、戦後処理を行っていたとしたら、日本の歴史は今とは全く異なったものになっていたかもしれません。他国の歴史を学ぶことは、自国の歴史を顧みる大切な機会を与えてくれます。
(*)参考書籍
物語アイルランドの歴史波多野 裕造(著)
『Veronica Guerin』(ヴェロニカ・ゲリン)でアイルランド英語
『サンデー・インディペンデント』紙の女性記者、ヴェロニカ・ゲリンという実在の人物の半生を描いた物語です。アイルランドのダブリンで、麻薬犯罪を追及し、1996年6月26日に犯罪組織によって6発の銃弾で射殺されました。
出演者はヴェロニカ・ゲリンを演じたオーストラリア人のケイト・ブランシェット以外、皆アイルランド出身。本格的なアイルランド英語に触れられる映画の一つかもしれません。ケイト・ブランシェット自身も、生前のヴェロニカ・ゲリンを話し方も含め徹底的に研究したとこのこと。残念ながら本編ではカットになってしまいましたが、DVDの特典映像に納められたジャーナリスト保護委員会(CPJ: Committee To.Protect Journalists)によるプレスフリーダム受賞スピーチのシーンでは、本人の仕草、つなぎの言葉などもそっくりであることが分かります。
上の音声はその時の本人のスピーチです。映画のケイト・ブランシェットと比べてみてください。
Thanks, Leslie.
I really am both humbled and honored to receive this award, particularly because of the company that I’m keeping here. The other recipients, I certainly feel, are more deserving than myself.
I’m accepting this award on behalf of myself and particularly on behalf of my colleagues in the Sunday Independent who have encouraged me and supported me in my investigative work whilst I’ve been working in the paper.
It is very unusual to hear that an Irish reporter has been shot or intimidated. Unfortunately, because of the ever-rising crime problems in Ireland, a number of reporters — not just myself — have been subjected to death threats and to intimidation on a daily basis. So, for my colleagues in other newspapers and in the broadcast media, I’m grateful that the CPJ [Committee to Protect Journalists] have decided to honor an Irish and European journalist.
Unfortunately, in — in Ireland, journalists there also have to face the — the threat of possible imprisonment. And I welcome this opportunity to highlight the appalling case of a colleague of mine who works in the Irish Independent. And she, too, is facing, like Fred M’membe, here — she’s facing a possible jail sentence. And the reason that she’s facing possible imprisonment is because she published a document which was widely circulated in the — within the police force in Ireland about the suspects of the bank robbery which I reported the day before my — which I reported on the day before my shooting.
Now, Liz Allen is — is my colleague who’s facing a possible jail sentence. She’s — it’s alleged — [breached the] The Official Secrets Act. We have to face, you know, we write under ridiculous restrictive laws in Ireland. It’s a wonderful country, great place to visit, but unfortunately for journalists the most difficult thing that we have to work within are our restrictive libel laws. It’s difficult for our publishers because they’re the people who have to pay the lawyers the massive amounts of money on a daily basis in courts.
These are the issues that I feel that I have to highlight here. It’s not the fact that journalists may be shot. But it is the “legitimate” restrictions that we work within. And I thank you, I thank the Committee for The Protection of Journalists for giving me the opportunity to highlight this.
I really am humbled and honored to accept this award. In doing so, I want to thank two people who have encouraged me, despite an incredibly difficult last twelve months. And they are my husband, Graham, and my son, Cathal. Because I can assure you that if they hadn’t supported me, I wouldn’t be doing it.
Thank you very much
ありがとう、レスリー。
この賞を受賞することは身に余る光栄です。この会場には私よりもはるかに賞に値する記者が集まっているからです。
私はこの賞を私自身とサンデー・インデペンデントの仲間に捧げます。私が調査に専念しそれを記事にできたのも、彼らの励ましと支えのお陰です。
アイルランド記者が襲撃を受けた話を聞くのはまれでしょう。残念なことにアイルランドの犯罪増加に伴い私だけでなく、多くの記者が日常的に命を脅かされています。母国の他の新聞社や放送メディアのためにも、アイルランドの記者に賞を与えてくれたCPJに感謝します。
不幸にもアイルランドでは記者は投獄されるリスクを負いながら取材をしています。この場をお借りして、私の知人である1人の新聞記者の話をします。彼女もここにおられる男性と同様に実刑判決が下される危機に直面しています。そのような危機に直面した原因は銀行強盗の容疑者に関する文章を発表したからです。それはアイルランド警察内で流布していた文章でした。
私はこの事実を襲撃を受ける前日に報道しました。判決の危機にある女性の名はリズ・アレン、公職秘密違反の容疑がかかっています。アイルランドの記者は理不尽な法に縛られています。すばらしい国で観光には最高ですが、この国の名誉毀損法は記者の障害となっています。弁護士費用を負担するのは新聞社なので、新聞社の記事が発行を渋るケースが生じます。
これらが私が提起したい問題です。問題は記者が撃たれるか否かではなく、記者が置かれている状況にあるのです。これらの問題を取り上げる機会を与えてくれたCPJに感謝します。
授賞を心から光栄に思います。最後にここで苦悩に満ちたこの一年の間、私を指させてくれた2人に感謝の言葉を。夫のグレアムと息子のカハルです。今の私があるのは2人のお陰です。
ありがとう。
彼女は、同僚の例を挙げ、アイルランドの記者は投獄されるリスク負いながら取材をしていると訴えています。同僚が問われているのは公職秘密違反。日本でも、同様に記者達を萎縮させる危険性をもった法令が制定されようとしています。私たちは、今一度このヴェロニカ・ゲリンの言葉に耳を傾ける必要があるのではないのでしょうか。
彼女のように脅され、襲撃されたジャーナリストは他にも数多くいるはずです。ジャーナリスト保護委員会によれば2012年に殺害されたジャーナリストは73名とこと。その一人ひとりに、『Veronica Guerin』に匹敵するような物語があるに違いありません。大量に流れてくる雑多なニュースの中から本当に見つめなければいけない事柄を、私たちは自ら探し出す必要があるのです。
ヴェロニカ・ゲリンを殺害した犯罪組織の首謀者ジョン・ギリガン(John Gilligan)は、麻薬取引の罪で28年の刑を宣告されたと、映画は伝えています。ところがその後20年に減刑。そして、なんと17年後の2013年10月15日に釈放されました。
(*)参照リンク
Veronica Guerin
International Press Freedom Award Acceptance Address, delivered 1995, New York
『My Left Foot』(マイ・レフトフット)でアイルランド英語
1932年6月クリスティ・ブラウン(Christy Brown)はダブリンのロトゥンダ病院で生まれます。しかし、彼の父パディー(Paddy Brown)は医師から、彼が重い脳性麻痺であることを告げられます。両親は息子を特別な施設には預けず、他の兄弟と一緒に自宅で育てることを決めます。
言葉を学ぶことさえ難しいとされたクリスティはある日、左足にチョークを挟み”MOTHER”と床に書いて見せるのです。「さすが私の息子だ」と心から息子を誇りに思った父は、息子を肩に担ぎ行きつけのバーに駆けつけ、客達に高らかに宣言するのです。
This is Christy Brown. My son. Genius.
(こいつはクリスティ・ブラウン。私の息子だ。天才だ)
さて、この”My son“が”Moi son“(モイ・ソン)の様に聞こえます。これはアイルランドの英語の特徴の一つ。母音が次のように変化する傾向があるようです。
“night”、 “like”、 “I”、 “Ireland”等が、”oil”の”oi”のように発音される傾向があります。
“night“ ⇒ ”noight“
“like “⇒ ”loike“
“I“ ⇒ ”Oi“
“Ireland” ⇒ “Oireland”
その父が無くなった際に、家族、友人がまたこのバーに集まり通夜が行われます。「パディがお気に入りだった歌を」というクリスティの言葉に続いて、次の曲を皆で歌います。
It was down the glen one Easter morn
To a city fair rode l
There armored lines of marching men
In squadrons passed me by
No fife did hum
No battle drum did sound its loud tattoo
And the Angelus bell o’er the Liffey’s swell
Rang out in the foggy dew
あるイースターの朝 谷を行かば
それは都へ続く はるけき道のり
兵士の行進 勇ましき長靴の音
かたわらを過ぎ行かん
横笛の調べも 太鼓の音もなく
帰営のラッパ 高らかにさえて
たゆとき流れ リフィーの川面より
霧の港に 響き渡らん
この曲は1916年イースター蜂起を歌ったもの。イースター蜂起とはイギリスの支配を終わらせ、アイルランド共和国を樹立する目的でアイルランド共和主義者たちが引き起こした武装蜂起です。「第一世界大戦中に多くのアイルランドの若者がイギリス軍の監督下で命を落とした。我々はイギリスではなくアイルランドの為に戦うべきではないのか」と歌っています。歌は次のように続きます。
スーヴラ湾やサデルバの村(で英軍に従う)よりは、アイルランドの空の下で死ぬ方がいい。
アイルランドの人々におけるイースター蜂起の意味合いをとても興味深く思います。また、もし自分が納得できないものの為に命を落とすことになったとしたら、その気持ちはどれほどのものであろうかと思いを馳せてみたりします。
パディを演じたレイ・マカナリーは、この映画が公開された4ヵ月後の1989年6月15日心臓発作で亡くなっています。63歳でした。
(*)参考リンク
The Foggy Dew
映画『The wind that shake the barley』でアイルランド英語の特徴 – you の単数形と複数形
英語は一つではありません。様々な英語に触れることで、英語の聴野角を広げて行きましょう。発音はもちろん、アクセントや文法に至るまで、教科書では間違いだと学んだ用法が、実際の会話では普通に使われいることもあるようです。いったん教科書的な知識は横において、生きた英語に触れることで、あなたの英語力が一段上がるかもしれません。
二人称を表す”you”には、単数、複数共に使うことができますが、アイルランドでは地域によってことなるようですが、この二つを区別して次のような言い方をするようです。
二人称が複数(あなた達、他)の場合: “ye” “yis” “yous”
二人称が単数(あなた、他)の場合: “ya”
映画『The wind that shake the barley』の中に、”ye”が使われているシーンがありあました。発音はyouとyee(イー)の中間のように聞こえます。麦が生い茂る丘で、訓練をしているシーンです。ライフルに見立てて持っているのは、ゲール族を起源とするアイルランドの伝統的スポーツ、ハーリング(Hurling)のスティックです。
▽『The wind that shake the barley』予告編
If we lose half this column, it’s not readily replaceable.
The Brits see ye, they’re going to kill ye,
the Brits catch ye, they’re going to kill ye.
隊の半分があっさり殺された。全員座れ。
隊の半分も失ったら、補充するのは無理だ。
イギリス兵はお前らを見つけ次第、何のためらいも無く殺すぞ。
アイルランド英語の特徴 – “th”の発音
日本で英会話を勉強した後、いざ海外に言って驚くのが、現地のネイティブスピーカーの映画が今まで英会話学校では聞いたことがないような英語を話していることです。
しかし、それはあなたの英語力が無いからではありません。相手が標準英語を話していないから、独特のアクセントのある英語を話している場合がよくあります。解決策は、できるだけいろいろなタイプの英語に触れること。もしくは、これから訪れる予定のある国の英語を映画などで集中して聞いてみるのがよいでしょうか。
さて、”th”は、日本人が苦手とする発音の一つだと言われます。もともと、日本語には無い音ですからしょうがないのかもしれません。でも、”th”が発音できていなくても、文脈によってちゃんと通じることもあります。また、ネイティブスピーカーでも”th”を正しく発音していない人々もいるようです。
アイルランドもその一つ。”think” は”tink”(チンク)、”that”は”dat”(ダット)のように発音するそうです。映画『The wind that shake the barley』の次のシーンでも、”thousand”が”tausand”(タウザンド)と言っているのが聞き取れます。
Too many.
How many?
There’s about ten thousand.
Ten thousand? Tans?
Artillery units, machine gun corps, cavalry.
And many more besides. What’s your point, Damien?
この国に英国の兵は何名いる?
大勢
何名だ?
約1万人
タンズ武装警察が1万人
砲兵隊に、機銃部隊に?
他にも、もっといるさ。だから何だ?
『The Wind That Shakes the Barley』(麦の穂をゆらす風)でアイルランドの歴史を学ぶ
ETC英会話のレッスンで様々な国籍の先生に出会うと、レッスンが進むのにつれて、先生ご自身のこと、そして先生が生まれた国についても興味が湧いてきます。
ところが、いざある国の歴史を学ぼうとすると、如何に難しいのかということも分かってきます。おそらくそれは、歴史の中に身をおいた人々の沢山の目線があるからなのかもしれません。国を治めるものの目線、一般市民の目線、その国を侵略をしようとした外国政府の目線、兵士の目線、男性の目線、女性の目線。どの目線を通して歴史を見るのかによって、全く異なった姿が見えてくるからなのかもしれません。
映画『The Wind That Shakes the Barley』(麦の穂をゆらす風)が描くのは1920年のアイルランド。タイトルの”The Wind That Shakes the Barley”は、アイルランドの詩人Robert Dwyer Joyce (ロバート・ドワイヤー・ジョイス)の作品から取ったもの。1798年のアイルランド反乱に身を投じた不運な若者を歌っています。
反乱軍は行軍の際は常に麦を捕食用としてポケットに入れていたとのこと。命を落とした沢山の同士は墓標も無いまま大地に穴を掘って埋められた。その大地からは生まれ育った麦。つまり、麦は世代を超えて受け継がれる反乱軍のそのものを象徴していたそうです。悪名高き英国治安部隊「ブラック&タン」によって命を奪われた友人を弔う場でも、この歌が歌われています。
That made me think of Ireland dearly
While the soft wind blew down the glade
And shook the golden barley
T’was hard, the woeful words to frame
To break the ties that bound us
And harder still to bear the shame
Of foreign chains around us
And so I said the mountain glen
I’ll meet at morning early
And I’ll join the bold united men
While soft winds shook the barley
古き愛は恋人に
新しき愛は祖国アイルランドに
柔らかな風が谷間に吹き渡り
黄金色の麦の穂をゆらした
2人の絆を断ち切る言葉は
辛くて口に出せないが
それよりもなお辛いのは
異国の鎖に縛られる屈辱
それで私は言う 山の谷間へ
夜明けに仲間を求めて行こう
柔らかな風が谷間に吹き渡り
黄金色の麦の穂をゆらした
アイルランド独立戦争後、1921年の英愛条約締結によりアイルランド自由国(後のアイルランド共和国)が成立します。しかしその内容は、関税、課税、経済政策の自由が保障される一方で、自由国は自治領として大英帝国にとどまり、自由国の国会議員は英国王に忠誠を誓う。そして、北部6州は北アイルランドとして連合王国の一部となるとういものでした。
この条約は、賛成派と反対派に、共に独立戦争を戦った義勇軍を二分することになります。一部はアイルランド国防軍に加わり、一部は同条約に反対し非正規軍として。それまでの仲間が、今度は敵味方として戦ってゆくことになるのです。
英国からの完全な独立を目指す反対派のDan(ダン)は次のように言います。
もしこの条約を批准すれば、変わるのはただ権力者の言葉の訛りと国旗の色だけだ。
これはイースター蜂起でDanが共に戦ったとする社会主義者James Connolly(ジェームス・コノリー)の言葉に影響を受けたものだと言うことが分かります。
”If you remove the English army tomorrow and hoist the green flag over Dublin Castle, unless you set about the organization of the Socialist Republic your efforts would be in vain. “
(諸君がたとえ明日イギリス箪を一掃し、ダブリン城に緑旗をかかげたとしても、社会主義共和国の組織化を開始せぬ隈り、諸君の努カは無に帰すであろう。)
では、イースター蜂起とはどのような戦いだったのでしょうか。英愛条約締結の交渉に当たったMichael Collins (マイケル・コリンズ) とはどのような人なのでしょうか。次は映画『Michael Collins 』のご紹介です。
世界で最もセクシーなのはアイルランド訛り
世界で最もセクシーなアクセントは?市場調査会社OnePollが女性5000人に対してこんな調査を行いました。結果は次の通り。
1. Irish
2. Italian
3. Scottish
4. French
5. Australian
6. English
7. Swedish
8. Spanish
9. Welsh
10. American
この結果は、一般的にアクセントそのものがセクシーと言う理由だけでなく、そのアクセントからイメージされる有名人が誰であるかというのも大きな影響を与えているのではないかとのこと。
アイルランドを代表する俳優のコリン・ファレル(Colin James Farrell)の人気がアイルランド訛りを一意に押し上げ、かつてセクシーな言葉の代表とされたフランス語が、ニコラ・サルコジ大統領(Nicolas Sarközy)の女性の間での不人気が、首位転落の原因となっているらしいとのこと。
「女性にもてたいのならアイルランドの英語を学ぼう!」と言うよりも、「コリン・ファレルみたいになろう」と言ったほうが正しいのかもしれません。
(*)参照リンク
The Irish accent voted sexiest in the world, over French
映画『The Commitments』でアイルランド英語
ダブリンで労働者階級のためのソールバンドを作る。これが映画『The Commitments』のテーマです。
監督のアラン・パーカーは、この映画のオーディションのために同地で活動している100以上のバンドに実際に会いました。さらに、公開オーディションには3000人もの若者たちが集まったとの事。殆どの出演者が演技は初めて。撮影を通して役者として成長して行く過程が、映画のストーリーと重なって、リアリティを感じさせます。ライブ映像は編集、加工なしで本当にライブ撮影を行ったとのこと。映画が後半に近づくにつれて、演奏は迫力をまし、彼らの演奏に心から感動してしまいます。
さて、アイルランド英語の特徴にはどのようなものがあるのでしょうか。『世界の英語を映画で学ぶ』(山口美知代 編著書)には、この映画を題材にしながら次のような説明されていました。
アイルランド英語は大きく二つに分けられるそうです。ひとつは、イングランド英語の影響を受けた南部アイルランド英語、もうひとつはスコットランド英語の影響を受けた北部アイルランド英語。南部アイルランド英語は、ダブリンやその周辺で話されていた英語がアイルランド共和国の大半に広がったもので、イングランド西部、中西部地方からの入植者の英語の影響が強いとのこと。この映画で話されているのも後者の英語だそうです。
「発音」「文法」「語彙」などにそれぞれ様々な特徴がありますが、ここでは同書から「発音」についてご紹介します。
アイルランド英語のわかりやすい特徴的な発音
◎母音
・motherなど
母音/ʌ/アは、唇をまるめる母音[ɔ]オに近くなる
・bookなど
母音/u/ウの代わりにウー[uː]が用いられることがある
・many、anyなど
母音[e]に代わって[æ]エに近いアが用いられることがある
◎子音
・thの[θ]が[ʈ]と、[ð]が[d]との区別がなくなることが多い
thinとtinが同じように発音される
thinkがtinkのように発音される
nothingは、直前の/ʌ/の音をより口の奥で発音するのと相まってが「ノッティン」のように聞こえます
・/s/が[ʃ]シュとなることがある
stairs(階段)が「ステアーズ」ではなく「シュテアーズ」のようになる
・/l/はいつもはっきりと発音され、母音化されることはない
Well, like…maybe we’re a little white (for that kind of thing.)
(これをやるには俺たち シロ過ぎないか)
I’m black and I’m proud!
(おれは黒人だ。それを誇りに思っている)
予告編のwhite、proudはそれぞれ母音をより口の奥で発音しているためか「ホオーィト」、「プローィド」のように聞こえます。これもアイルランド英語の特徴の一つなのかもしれません。
(*) 参照図書
世界の英語を映画で学ぶ (山口美知子 編著)