映画『The Quiet Man』(静かなる男)でアイルランド英語
アイルランド系アメリカ人の青年ショーンは、両親の故郷であり、子ども時代を過ごしたアイルランドの小さな村イニスフリーを訪ねます。誠実で逞しく性格の良い青年は、たちまち街の人々の人気者となってゆきます。屈強な身体を持ちながら、暴力を振るうことは決して無く、挑発されても争いを避け、その場を静かに後にするだけ。それは、かつてボクサーだった彼が起こした事件が影響していました。
撮影はアイルランド共和国のメイヨー州、ゴールウェイ州などで行われました。映画にはたくさんのアイルランド俳優が登場し、またゲール語が話されるシーンもあります。
ショーンは両親がかつて住んでいた川辺の家を買い戻します。家の修繕をしているところに、プレイフェア夫妻が訪ねてきます。アイルランド英語の特徴の一つはr音を強調して発音すること。特にプレイフェア氏の発音に注意して聞いてみてください。
– Hello.
どうも
– Good morning, Mr Thornton.
お早う ソーントンさん
– How are you, Fa..Doctor…
先生…
– No, no. Mr. And on formal occasions,the Reverend Mr Playfair.
“プレイフェア牧師”で構わないよ
And this is Mrs Playfair.
これが家内だ
Well, Mr Thornton.You are a wonder.
まあ ソーントンさん すばらしいわ
It looks the way all the Irish cottages should…
これこそまさにアイルランド風だわ
and so seldom do.
いいお手本だわ
And only an American would have thought of emerald green.
エメラルド・グリーンはアメリカ人らしいわ
– Red is more durable.
赤は長持ちする
– And the roses! How nice.
それに素敵なバラだこと
You’ll need lots of horse manure. Fertiliser, I mean. Horse is the best.
馬のフンが一番いいわ 肥料としてね
Oh, I brought you a plant.
鉢を持ってきたの
You know, “a primrose by a river’s brink”.
“川脇に咲くサクラ草”よ
“Brim“, not “brink“. The next line ends in “hymn”.
“brink”じゃなくて”brim”だよ。次の行は”him”で韻を踏むんだから
Poets are so silly, aren’t they? Oh, I hope you’re not one, Mr Thornton.
詩はわからないわ まさか 詩がご趣味で?
– Oh no, ma’am, I…
とんでもない
– Thornton.There’s a familiar ring to it.
ソートン…聞いたことがある名前だ
Ring to it… Thornton…
確かどこかで ソーントン
プロテスタントは牧師であっても結婚が許されています。アイルランドでプロテスタントは支配階級に属し、イギリス系アイルランド人であることを示しています。そのプレイフェア牧師が引用したのは、イングランドの詩人ワーズワースの長編詩『Peter Bell: A Tale in Verse』からでした。次の行末はhimで韻を踏むのだから、brinkは当然間違いだろう。brimが正しい、と言っています。引用した原文は次の通りです。
A primrose by a river’s brim
A yellow primrose was to him,
And it was nothing more.
川辺に咲くサクラソウ
黄色いサクラソウは彼にはただのサクラソウ
それ以上のものではない
生き物や自然を全く大切にしようとしないPeter Bellが、ある晩沼に溺れた時に、それまで彼が虐めていたロバに助けられます。その後そのロバと旅をする過程で、生きとし生けるもの達の思っても見なかった力を目の当たりとし、それまでの罪を悔いる物語です。ワーズワスはイギリスを代表する自然観照の詩人と言われているそうです。
(*)関連リンク
Peter Bell: A Tale in Verse