映画『The Dead』(ザ・デッド/「ダブリン市民」)でアイルランド英語

138876_1 「英語を学びたい」、その動機は人それぞれ。旅行のため、仕事のため、趣味のため。そして、英文学を楽しみたいから。そう思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 映画『The Dead』は、アイルランドを代表する国際的作家、ジェイムス・ジョイス(James Joyce)の作品『ダブリナーズ』(Dubliners)の中の「死せるものたち」(The Dead)を、ジョン・ヒューストン監督(John Huston)が映像化したものです。

 彼はこの映画の公開を待たずして亡くなりました。車椅子に座り、鼻には酸素注入器の管を貼り付けて映画制作に取り組んでいたとの事です。主演を務めたのは娘のアンジェリカ・ヒューストン(Anjelica Huston: 写真)でした。

 自分自身の死期を悟っていたであろう彼が、最期に選んだ作品がThe Deadでした。原作を忠実に描きながらも、彼自身の遺言としてのメッセージを映画の中に込めていたりはしていないでしょうか。もしかしたら、原作と映画の違いに着目することで、彼が最も伝えたかったこと、彼自身の声が聞こえてくる来るかもしれません。

 映画では原作にはない人物が登場します。グレース氏です。彼は、これもまた原作には記載されていなかった詩を朗読します。『破られた誓い』(Broken Vows)と映画の中で紹介されているこの詩は、実際のタイトルは 『Donal Og』(Young Daniel)。8世紀にゲール語で書かれた詩を、アイルランドの劇作家・詩人であるオーガスタ・グレゴリー夫人(Lady Isabella Augusta Gregory)が20世紀頭に英訳したものです。ゲール語の世界を、英語で甦らせたとして高く評価されているようです。

Donal Og
It is late last night the dog was speaking of you;
the snipe was speaking of you in her deep marsh.
It is you are the lonely bird through the woods;
and that you may be without a mate until you find me.

You promised me, and you said a lie to me,
that you would be before me where the sheep are flocked;
I gave a whistle and three hundred cries to you,
and I found nothing there but a bleating lamb.

You promised me a thing that was hard for you,
a ship of gold under a silver mast;
twelve towns with a market in all of them,
and a fine white court by the side of the sea.

You promised me a thing that is not possible,
that you would give me gloves of the skin of a fish;
that you would give me shoes of the skin of a bird;
and a suit of the dearest silk in Ireland.

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(*)映画では次の二節は略されています。
(When I go by myself to the Well of Loneliness,
I sit down and I go through my trouble;
when I see the world and do not see my boy,
he that has an amber shade in his hair.

It was on that Sunday I gave my love to you;
the Sunday that is last before Easter Sunday
and myself on my knees reading the Passion;
and my two eyes giving love to you for ever.)

My mother has said to me not to be talking with you today,
or tomorrow, or on the Sunday;
it was a bad time she took for telling me that;
it was shutting the door after the house was robbed.)

(*)映画では次の一説は略されています。
(My heart is as black as the blackness of the sloe,
or as the black coal that is on the smith’s forge;
or as the sole of a shoe left in white halls;
it was you put that darkness over my life.)

You have taken the east from me, you have taken the west from me;
you have taken what is before me and what is behind me;
you have taken the moon, you have taken the sun from me;
and my fear is great that you have taken God from me!

破られた誓い
昨夜 夜もふけた頃 犬があなたを呼び
沼のしぎも あなたの名を呼んでいた
森をさまよう 孤独な鳥は あなた
私を探し当てるまで 連れ添うものは現れないだろう

あなたは 偽りの言葉を誓った
羊の群れが集まった時 私の前に現れると
私は口笛を吹き 名を呼んだ
だがそれに答えたのは 子羊の泣き声

あなたは約束した ほかにないものを贈ろうと
銀のマストを立てた黄金の船
マーケットを持った12の街
青い海をのぞむまばゆい白亜の宮殿

あなたは約束した この世にないものを
魚の皮でつくった 手袋を君にあげると
小鳥の皮でつくった靴と
アイルランド製の絹の服をあげると

母は言った あの男と話をしてはいけないよ
今日はもちろん 明日も 日曜でさえも
だが 母の忠告は手遅れだった
盗っ人が入ってから ドアを閉めるようなもの

あなたは私から 東を奪い去り 私から西を 奪い去った
あなたは私の前にあるものと 私の背後にあるものを奪った
あなたは私から月と 太陽を奪い去ってしまった
そして この胸の恐れおののく あなたは私から 神さえを奪ってしまった

(*)日本語訳はビデオ『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』から

 母に反対をされ、結ばれなかった若い2人の歌。少年が愛する少女に贈った数々の言葉、愛の誓いが成就しなかったことが伝わってくる作品です。原作には無かったこの詩は、実はこの映画のテーマをより深く理解するためのひとつ物語として心に残ります。

 原作では、登場するアイルランドの古い民謡『The Lass Of Aughrim(オグリムの娘)』が歌われています。若い娘がグレゴリー卿の城を訪ねます。腕には彼との間に生まれた幼子を抱いて。しかし、彼の母は彼女の城に入れず、追い返してしまいます。悲しみにくれた娘は幼子と共に海で命を絶ってしまうという内容です。母の反対により結ばれなかった若い2人、そしてそのことが招いた死。『ザ・デッド』のテーマはまさにこの曲の中に歌われています。

 そして、先の 『Donal Og』で歌われた愛の誓いは、この2人の愛の深さを連想させる役割を映画の中では果たしています。

The Lass Of Aughrim 
If you’ll be the lass of Aughrim
As I’ll take you to be
Tell me that first token
That passed between you and me

Oh don’t you remember
That night on yon lean hill
When we both met together
I am sorry now to tell

Oh the rain falls on my yellow locks
And the dew soaks my skin;
My babe lies cold in my arms;
Lord Gregory, let me in

Oh the rain falls on my heavy locks
And the dew soaks my skin;
My babe lies cold in my arms;
But none will let me in

オーグリムの乙女
あなたは オーグリムの美しい乙女
もしわたしの目に 狂いがなければ
覚えているだろうか あなたと交わした
初めての愛のしるしを

あなたは今も覚えているだろうか
あの丘の上で過ごした 夜のことを
あなたと二人きり ひとときを過ごした
いま思えば 悲しい運命のひとときを

冷たい雨を降りそそぐ
重くぬれた わたしの髪に
地をおおう冷たい露は
わたしの肌をぬらす

幼な子はわたしの腕の中で 冷たく横たわっている
どの家も門を閉ざして 入れてはくれぬ
幼な子はわたしの腕の中で 冷たく横たわっている
どの家も門を閉ざして入れてはくれぬ

(*)日本語訳はビデオ『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』から

John Huston

John Huston

 難しいとも言われるジョイスの文学を、映画監督のジョン・ヒューストンがより分かりやすく映像化してくれています。彼自身はアメリカの生まれですが、父はスコットランド系アイルランド人。アイルランドは彼自身のルーツと感じていたのかもしれません。

 映画『The Dead』通して、アイルランド文化に対する敬意と表すと共に、それをより多くの人々の心に奥に届けようとしたのではないでしょうか。それが、ジョイスの文学であり、グレゴリー夫人の詩であり、古いアイルランド民謡であったのでしょう。

 さて、日本人が敬意を表する日本の文化とは何でしょう。日本人のあなたが最期に次の世界に遺したいとおもう文学、歌とは何でしょうか?アイルランドの文化に触れながら、自国の文化を思い返すきっかけとなりました。

 
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