『Pygmalion』(ピグマリオン)でコックニー英語

ETCマンツーマン英会話 バーナード・ショーによる戯曲『Pygmalion』(ピグマリオン)は、大ヒットした舞台、そして映画作品『My Fair Lady』(マイ・フェア・レディ)の原作です。花売り娘のイライザ・ドゥーリトルと偶然であった言語学者のヒギンス教授は、彼女のコックニー英語を矯正し、淑女の言葉遣いを教え込んでゆきます。

 例えば、コックニー英語ではH音が脱落します。映画『Pygmalion』の中では、”Hampshire”、”Hereford”、”Hartford”の発音法をロウソクの火を使ってイライザに特訓します。H音を正しく発音すれば、蝋燭の火が大きく揺らめくことにイザイラは気が付きます。蝋燭をつかった発音練習は、リチャード先生も発音のレッスンの際に実際に取り入れていました。

 しかし、矯正しなければいけないのは発音だけではありませんでした。ヒギンス教授はイザイラの言葉遣い(語彙)や文法についても教育していかなければならないことに気が付きます。初めてのお茶会でのシーンです。

Eliza:
My aunt died of influenza. So they say.
But it is my belief as how they done the old woman in.
叔母がインフルエンザで死にました。
でも本当は奴らが叔母をバラしたんです。

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Mrs. Eynsford-Hill:
Done her in?
バラした?

Eliza: 
Yes, Lord love you.
Why should she die of influenza when she come through diphtheria right enough the year before?
インフルエンザで死ぬわけがありません。ジフテリアでも死ななかったのに。

Higgins:
Perhaps it wasn’t diphtheria. You see, Vicar…
ジフテリアじゃなかったかも。司教様。。。

Eliza:
Oh, but I saw her with my own eyes. Fairly blue with it she was.
They all thought she was dead, but my father, he kept ladling gin down her throat till she come through so sudden, that she bit the bowl off the spoon.
だがこの目で見たのです。顔が青いのを。
死んだと思ったのに父がジンを飲ませると、突然目を開きスプーンを噛み切った。

Mrs. Eynsford-Hill:
Dear me!
まあ!

Eliza:
Now, what call would a woman with that strength in her  have to die of influenza?
そんな人がインフルエンザで死にますか?

Mr. Birchwood, the Vicar:
Ah.

Eliza:
And what become of her new straw hat that should have come to me?
それにわたしがもらうはずの新品の麦わら帽子を

Higgins:
Well, what?
どうした?

Eliza:
Somebody pinched it. And what I says is, them what pinched it done her in.
誰かが盗みました。帽子を盗んだ連中が叔母をバラしたのです。

Mrs. Eynsford-Hill:
Done her in? 
“バラした”?

Mr. Birchwood, the Vicar:
Could you tell me…
その言葉は・・・

Higgins: 
– It’s just the new slang, Vicar.
新しい俗語です。

– pinch: 非標準方言だけでなく標準英語でも使われる俗語「盗む」
– them what: :コックニー特有の言い方。標準英語では”those who”
– done her in: コックニーでは、didと過去形を使うところを過去分詞のdoneを使う。”do in”は俗語で「殺す」。

 この舞台が初めて上演されたのは20世紀の初め。当時の言葉遣いの作法について、同戯曲をはじめて翻訳された小田島恒志氏が次のように説明しています。

 僕は2000年以降の現代劇をずいぶん翻訳しているんですけれども、2行に3回はFで始まる4文字語が英語では出てきます。とにかく汚いというよりはそれが必ず出てくるんです。しかし、当時の汚い言葉の感覚では、そんなことは考えられない時代です。

 100年前は「血なまぐさい」という意味の”bloody”は口にしてはいけない言葉でした。今は何とも思わないけれども、bloody は口にしてはいけないというのが常識の時代。「Bで始まるあの言葉」とか、「BY」とかで言い換えしていた時代にイライザがその一言を舞台の終わりのほうで言うんです。舞台初日の次の日の新聞の文化欄トップです。舞台の上でこの単語を言ったと。

舞台『ピグマリオン』記者会見より

 しかし、正しい言葉や礼儀作法を身につけたところで幸せにはなれない。イザイラは足りないものに気が付きます。

 I want a little kindness. (私はほんの少し思いやりが欲しいだけ)

 発音や文法や語彙にもましてイザイラが大切だと感じたこと。それは、「思いやり」でした。私たち語学学習者にとっても大切なメッセージではないでしょうか。

 
(*)参考図書
『言葉にこだわるイギリス社会』 (ジョン・ハニー)

 
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