映画『Liam』(がんばれ、リアム)でアイルランド民謡
舞台は1930年代初頭のリバプール。不況のあおりで閉鎖となった造船所で働いていたカソリックのリアムの父Dadは失業。街にはアイルランドからの移民があふれ、リバプールで生まれ育ったDadは、彼の仕事を奪ったのは低賃金で働くアイルランド人と、それを雇うユダヤ人が原因だと信じるようになります。
映画の冒頭には、アイルランド移民とイングランド人との対立を表すようなシーンがあります。新年を祝うパーティで、アイルランドからの移民だと思われる女性が、”I’ll Take You Home Again Kathleen”を歌います。もともとアイルランド民謡ではなく、19世紀末にドイツ系アメリカ人によって書かれた歌だそうですが、歌詞の内容からかアイルランドの人々に愛され、歌われてきている歌だそうです。
I’ll take you home again, Kathleen
Across the ocean wild and wide
To where your heart has ever been
Since you were first my bonnie bride.
お前を家に連れて帰ろう キャスリーン
あの荒波を乗り越えて
お前の心のふるさとへ
かわいいお前が嫁いでくれて
それを聞いていた女性が、「そんなに故郷がいい所なら、アイルランドに帰ればいいじゃないか」と毒づきます。それまで気持ちよさげに「I’ll take you home again, Kathleen」を歌っていた女性の表情は、怒りに満ち溢れ今度は「Off To Dublin In The Green」を歌い始めます。この曲は、1916年頃アイルランド義勇軍(IRA)の行進曲として歌われていました。アイルランド義勇軍は、カトリック信者のアイルランド人にとって彼らの誇り、アイデンティティを象徴するものの一つなのかもしれません。
And we’re off to join the IRA
And we’re off tomorrow morn
アイルランド義勇軍にいざ入ろう
明日の朝入隊しよう
そんな挑発的な歌を浴びせられた女性は、さらに興奮してこんどはプロテスタントの歌を歌い始めます。The sashは、17世紀ウィリアマイト戦争に勝利したオランダ総督ウィリアム3世を讃えるアイルランドの少数派プロテスタントの人々による歌です。
Here am I, a loyal Orangeman
Just come across the sea
For singing and for dancing
われらプロテスタント オレンジ党員
大海原を駈け
歌も踊りも 汝らに勝るわれら
宗教と政治に深く結びついている歌。そんな背景が理解できるようになると、映画もより味わい深いものになるのかもしれません。