宇宙飛行士若田光一さんの英語勉強法

 「人類は月や火星へと活動領域を拡大していき、宇宙をいろんな形で使っていく時代になると思う。目標をもつことの大切さと、その実現のために何をしたらいいかを考えて、今できることを毎日行ってほしい」

 国際宇宙ステーション(ISS: International Space Station)で、半年間という長期滞在を始めた宇宙飛行士の若田光一さんが、2022年10月14日記者会見を行い、宇宙空間から子ども達に向けて期待を込めて語りました。

 若田さんが宇宙飛行に挑むのは今回で5度目で、日本人最多となります。

 若田さんがNASA(米航空宇宙局)での訓練を始めたのは1992年、28歳の時でした。現在では流ちょうな英語を話すことで知られている若田さんですが、当時一番苦労したのは仲間のアメリカ人の宇宙飛行士との英語会話だったそうです。

 ※流暢な英語でインタビューに答える若田光一さん
 Space Station Live: Japanese Astronaut Koichi Wakata

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 たとえばスペースシャトルの打ち上げの模擬訓練でのことです。操縦室には若田さんを含む4人の訓練生が乗り込みました。若田さんは事前に一生懸命マニュアルを読み込み、システム操作の概要を予習していたので、どのような手順で何をやればいいかはわかっていました。

 ところが、訓練中に教官や訓練生が何を言ってるのか、単純な英語会話が聞き取れないことが何度もあったそうです。操縦室の4人のうち若田さん以外は全員がアメリカのテストパイロット出身の宇宙飛行士でした。

 訓練では「エンジン停止」「中央コンピュータ2つ故障」などトラブルが次々と発生。クルーの間の会話を100%理解していないと、どのコンピューターが今どういう状態で、どのエンジンがどう壊れているか、といった各システムの状況の全体を把握できなくなります。若田さんのミスでスペースシャトルが墜落してしまうこともありました。

 もちろん、ビジネスに必要な英語力は身に付けていました。でも、宇宙の現場で使う英語は「戦争映画の戦闘シーンで使う英語」に近いともいわれています。用語が特殊でスピードが速く、英語ネイティブのアメリカ人でさえ、理解が難しい特殊な表現もありました。会話には米国人特有のジョークもあり、冗談なのか、必要な会話なのか、当時は分からなかったそうです。

 システムの勉強は一夜漬けでも何とかなります。でも、英語は地道にやるしかありません。専門用語を覚えればいいというのでもありません。

 そこで若田さんが取った行動は、なるべく多く模擬訓練をする、仲間の訓練にも立ち会わせてもらう、米国人宇宙飛行士の仲間とたくさん話すことなど。とにかく現場に入って、英語に慣れていくことでした。

 また、ジェット練習機T38での操縦訓練の時は、コックピットの中の会話を全部録音して、それを、通勤の際に車の中で何度も繰り返し聞きました。

T-38A Talon

DAYTON, Ohio — Northrop T-38A Talon at the National Museum of the United States Air Force. (U.S. Air Force photo)

 録音するためにはヘッドセットと録音機材をつなぐプラグとアダプターが必要でした。でも、市販品が見つかりません。そこで、若田さんはT38電装系整備担当者を聞き出し、頼みにいきました。担当者は驚きつつ「簡単だよ」と、若田の要求に応えて機器を作ってくれたそうです。

 若田さんと一緒に飛行訓練を行った米国人宇宙飛行士は、飛行中、後ろの席で若田がブツブツつぶやいていることに気が付きました。何をしてたのかと聞くと、管制官とのやり取りを反芻し録音しているのだと、若田さんは言いました。

 こうした地道な努力を重ねながら、英語を身につけていきました。1年近く経った頃、会話が聞き取れるようになったそうです。

 「辛い時はなんでこの仕事をしているのかに立ち返って、目的意識をもう一回自分に問い正してみてしっかり考える。原点となる目標をもう一回理解した上で、その課題にチャレンジして克服できたのかなと思う。壁に直面して乗り越えようと試行錯誤し努力していた時が実は人生の中で自分が成長していた時だと思います」

 英語に限らず、私たちが新しい課題に挑戦し壁にぶつかったときに、この若田さんの言葉が勇気づけてくれるかもしれません。

 海外に行ったら、タクシードライバー、ホテルのスタッフ、レストランのシェフ、会議など、すべての会話をICレコーダーに録音して、聞き直すという勉強法は、先日急逝されたマイク先生のお薦めの勉強方法でもあります。ご興味のあるかたは下記のリンクを参考にしてください。

 ※本物の英語はICレコーダーで マイク先生(新小岩)

 また、聞いたことを殆ど同時に、内容がわからなくてもよいので小さな声でそのまま真似をして言ってみる「シャドー・トーキング」については、ロレット先生が解説しています。ぜひ下記をご参照してください。

 ※英語上達の秘訣はskimming、scanning そしてshadow talking – ロレット先生(西大井、熊谷)

(*)参照リンク
※若田宇宙飛行士 新年インタビュー 2022年再び宇宙飛行&ISS滞在

※邦人初!宇宙飛行士トップの「上り詰める」力 (東洋経済、2013年8月29日)

 
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