『クララとお日さま』が英文読書にお薦めの理由

 If you read a lot, if you read good books, naturally you can understand good writing.

 (良い本を沢山読むと、良い書き方が自然に理解できるようになります)

 ロバート先生(宇都宮) から頂いた「英文ライティング上達」のためのアドバイスです。

 「良い文章がかけるようになるには、良い読者になることが最も良い方法です。本当に良い文学作品を読むことで、良い作家の書き方のセンスが理解できるようになり、どのような書き方が効果的で、どのような書き方が効果的でないかがわかるようになってくるでしょう」

 そう言ってロバート先生は、ジョン・スタインベック(Ernst Steinbeck)、アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)やチャールズ・ディケンズ(Charles Dickens)ディケンズなどの作品を薦めてくれました。

 もし、現代文学に興味がある方でしたら、2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏(Kazuo Ishiguro)の作品はいかがでしょうか。

 イシグロ氏は1954年長崎市生まれ。5歳のとき、父の仕事の関係でイギリスに渡り、以降日本とイギリスのふたつの文化を背景に育ちます。その後英国籍を取得。1982年の長編デビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を受賞します。

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 イシグロ氏の作品がお薦めの理由は、その英語が平易で読みやすいことです。

 イシグロ氏は自分の本が世界中で翻訳され、いろんな人々に読まれることを意識して、イギリスの地方特有の表現や、ブロークンイングリッシュなどは作品のなかで使わないとのこと。翻訳者が誤解しそうな表現を避けるだけでなく、わかりやすい言語表現を使うようにしているそうです。

 2021年3月に発表された最新作の『クララとお日さま』(Klara and the Sun)は、「小さな子どものための挿絵入りの本」から多くの影響を受けたとのこと。子どもにでも理解できるやさしい語り口で、よりわかりやすい英語表現になっていると思います。

 物語の舞台は近未来の世界。人工頭脳を搭載されたクララと、病弱な少女ジョジ―との出会いと別れを描いています。語り手の「わたし」クララは人工親友(AF)です。未来の子どもたちは自宅で遠隔授業を受けていて、ほかの子と直接会って交流する機会がほとんどありません。代わりにAFが子どもたちの孤独を癒す役目を果たしています。

 クララは「ショートヘアで、浅黒くて、服装も黒っぽくて」、親切そうな目を持つフランス人みたいなAFです。最新型ではありませんが、ずば抜けた観察力と学習意欲をもち、見るものを吸収し、取り込んでいく能力と精密な理解力は最新型より優れています。

 クララはジョジ―の表情や声の調子、仕草などから、彼女の感情をきめ細やかに理解しようとします。

 Then when she smiled again, it was full of kindness, with no fear behind it.

 ジョジ―はしばらく考えて、また笑いました。その笑い声にはやさしさだけがありました。背後に恐怖など微塵もありません。

『クララとお日さま』(カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳)より

 クララの動力は太陽エネルギーです。自らに力を与えてくれるお日さまが住む空の変化には、特別な関心を注いでいます。

 The sky from the bedroom rear window was far larger than the gap of sky at the store – and capable of surprising variations. Sometimes it was the color of the lemons in the fruit bowl, then could turn to the gray of the slate chopping boards.

 寝室の奥の窓から見える空は、お店にいるときのビル合間に見えた空よりずっと大きく、驚くような色彩の変化を見せてくれました。フルーツボウルの中のレモンのような色かと思うと、俎板につかう石板の灰色に変わっていったりします。

『クララとお日さま』(カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳)より

 クララは人間の魂の存在に気づきます。そして、魂はその人の中にあるのではなく、その人を愛する人々の心の中にあるのだということを理解します。

 There was something very special, but it wasn’t inside Josie. It was inside those who loved her.

 特別な何かはあります。ただ、それはジョジ ーの中ではなく、ジョジーを愛する人々の中にありました。

『クララとお日さま』(カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳)より

 ジョジ ーの良い親友になるため、ひたむきに努力をするクララ。その一途な姿は他のどの登場人物(人間)よりも、読者の心を惹きつけてゆきます。

 上段にご紹介した英文も比較的わかりやすかったのではないでしょうか。翻訳本と原書を読み合わせてみるのがお薦めです。AIと人間が共生する近未来に思いを馳せながら、楽しい夏の読書時間が作れるかもしれません。

 『クララとお日さま』は映画化も決定したとのこと。どのような作品になるのか、今から楽しみです。

※『Klara and the Sun』Kazuo Ishiguro著
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