文字は光

 「文字の獲得は光の獲得でした」

 元教師の藤野高明さん(1938年〜)は福岡生まれ。敗戦の翌年の1946年、小学2年生の時に、不発爆弾の事故で両眼の視力をなくしただけでなく、両手もなくしてしまいました。一緒に遊んでいた弟、正明さん(5歳)は即死でした。

 それ以来、藤野さんは学校に行けなくなりました。当時、藤野さんが通っていた福岡市立高宮小学校の隣には、福岡県立盲学校がありました。でも、両手がなければ、点字が読めない、按摩、鍼灸が出来ないとの理由で、入学することが叶わなかったのです。

 18歳の時、主治医から「もう藤野さんの目は自分の手には負えない」と言われました。藤野さんは目標をなくし、自暴自棄になっていました。そんな時、看護学生が藤野さんに、北條民雄の『いのちの初夜』を読んでくれました。その本がきっかけとなり、重症のハンセン病患者の中には、視力と同時に手指をなくし、唇や舌先を使って点字を読む人がいることを、藤野さんは知るに至りました。

 「唇で点字が読めるようになるかも知れない」と、藤野さんは考えるようになりました。

 藤野さんは点字の書かれた紙を唇に当てて見ましたが、最初のうちはザラザラとツルツルが判別できるだけでした。何度も試みてるうちに、ザラザラの中に幾つかの文字が読みとれるようになりました。そして、その文字の固まりが言葉になり、文章となって理解できるようになったそうです。

 藤野さんは「光を失った自らの世界に、一筋の光が差し込んでくるのを感じました」と、語っています。

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ルイ・ブライユ(Louis Braille)

ルイ・ブライユ(Louis Braille)

 視覚障害者が使用する点字は、十九世紀前半、フランスのルイ・ブライユ(Louis Braille、1809年〜1852年)によって考案されました。点字は英語で「Braille」。ブライユの名前がそのまま冠されています。

 ブライユの父は馬具職人でした。ブライユが3歳の時、父の工房で遊んでいるうちに、誤って錐で左目の眼球を突き負傷。その後、右目も交感性眼炎を起こし、5歳で両目とも失明しました。

 ブライユは10歳でパリの王立盲学校に入学。そこで、フランスの軍人、シャルル・バルビエ(Charles Barbier、1767年〜1841年)が考案した12点式の暗号に出会います。戦場の暗闇で伝言をやり取りすることを目的とした「夜間文字」と呼ばれるものでした。

 夜間文字は、1マスに縦6点、横2列に点が並び、この12個の点を使って文字をつくるという方法です。

 しかし、1マスに12個の点があるので、全体を触るには範囲が大きすぎて、指からはみ出してしまいます。また、大文字を作る方法や数字を書く方法がなく、限界があることもわかりました。

 ブライユはこれを改良し、6点式の点字を発明しました。15歳の時でした。

 ブライユの点字はとても読みやすくわかりやすいものでした。縦に3点、横に2列の合計6点で構成される1マスを基本単位として、すべてのアルファベットの文字や句読点などを、6点の組み合わせて表すことができます。

点字

 このブライユの点字を基にして、日本語の点字が完成したのは1890年(明治23年)。小学校教員の石川倉次(くらじ)が考案した方法で統一され、日本全国に広まりました。

 他方、アメリカでは、複数の異なった方法が使われていて不便でした。それを一つに統合するように力を尽くしたのが、ヘレン・ケラー(Helen Keller、1880年〜1968年)です。

 1921年、ケラーの発案でアメリカ盲人援護協会(AFB)が創設。1931年に第1回世界盲人会議がニューヨークで開かれ、ヘレンはブライユの点字を世界共通の盲人のアルファベットとすることを提案しました。この提案が採択され、これを機にアルファベットの点字が世界で統一されました。

 In our way, we, the blind, are indebted to Louis Braille as mankind is to Gutenberg
 
 人類がグーテンベルクの恩恵を受けたように、私たち目の見えないものは、ルイ・ブライユの恩恵を受けた

(*)indebted to
 《be ~》~に対して恩義がある、~に恩恵を受けている

(*)グーテンベルク(Johannes Gutenberg、1397年頃〜1468年)
 活版印刷術を発明したドイツの印刷業者

Helen Keller with Anne Sullivan

Helen Keller at age 8 with her tutor Anne Sullivan

 それまでは全く知らなかった世界が、外国語を学ぶことで目の前にパーッと広がってくる。もやもやとしていた風景が、よりくっきり、はっきりと見えるようになる。点と点しかなかった事柄が、線となり繋がり、面となり広がって行く。外国語を学ぶ私たちが感じるあの感動は、藤野さんが感じられた一筋の光にも、通じるものがあるのかもしれません。

 学ぶことができる環境に感謝と喜びを感じながら、これからも言葉と向き合ってゆきたいと思います。

(*) 参考リンク

(*) 参考図書
6この点 点字を発明したルイ・ブライユのおはなし
ジェン・ブライアント (著)、日当 陽子 (翻訳)
https://amzn.to/3tyQ70X

ルイ・ブライユと点字をつくった人々 
高梁まい (著)、高橋昌巳 (監修)
https://amzn.to/3MVsuq4

 
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