書籍『Fifty Dead Men Walking』(IRA潜入スパイの告白)でアイルランド英語

 実際に起こった出来事を題材にした映画の最初に、次のような文言が表記されることがあります。

  Based on a true story.

 もしくは、

  Inspired by a true story.

 ”Based on a true story”は、事実をできるだけ忠実に描いた映画、”Inspired by a true story”は、話の核となる部分は事実に基づくも、そこから発想を得て創作した映画のことです。

 映画『50 Dead Men Walking』は後者。次のような説明からはじまります。

 
This film is inspired by the book “Fifty Dead Man Walking” written by Martin McGartland and Nicholas Davies.Some of the events, characters and scenes in the film have been changed.

本作はM.マガートランドの手記(『Fifty Deadmen Walking / IRA潜入逆スパイの告白』)に着想を得たもので、事件や人物等は部分的に手記と異なる

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 この映画を観たM.マガートランドは次のように言ったそうです。

“The film is as near to the truth as Earth is to Pluto.”

映画と事実がどのくらい近いかを例えるとしたら、地球と冥王星ぐらいだろう。

 つまり実際とは非常に異なるということ。特に、マガートランド氏がカトリックのアイルランド人である彼が、IRAの潜入スパイとして英国の公安警察の為に働くようになったモチベーションが、映画では正確に描かれていないようです。手記にはその動機について、次の様に語っています。

 ベルファストのリパブリカンが根を張っている地域で、熱烈なリパブリカンであるカトリックの家庭に生まれ育った私の十代は、自分たちの存在を誇示し、残虐行為によって脅威をたもとうとしたRUCと英国軍の連中を罵倒することに費やされた。
 リパブリカンたちが住む地域を力で制圧しようとし、そのほとんどがIRAと無関係な罪もない住民を無差別に殺害し、力で屈服させようとするロイヤリストの中の強行はであるUVF(アルスター義勇団)とUFF(アルスター自由戦士軍)からカトリック教徒たちを守ってくれるIRAを、私は支持した。
 だが、カトリック社会の擁護者を自認するIRAがなぜ、いわゆる「チンピラども(フーズ)」に対して膝のさらを撃ち抜くという残酷な仕打ちを行う悪名高い懲罰班を抱え、仲間家の人々を腕ずくで従わせる必要性があるのかが理解できなかった。
 十一人の罪のない人々が虐殺され、そのほかに六十三人の老若男女が重傷を負った、1987年11月8日の日曜日にエニスキリンで起きた爆弾テロは、IRAに対する私の信頼を粉々に打ち砕いた。なんの警告も、妥当な理由もなしに、その日曜日に盛大に行われていた英霊記念日を祝うパレードの真っ最中に、IRAは爆弾を爆発させたのだ。

(略)

 諜報活動のさいに感じていた後ろめたさは、たった一発の爆弾で雲散霧消してしまい、私は以後、宗派同士の無益な抗争を終結させ、罪のない人々の命を救うためならどんな努力でも傾けようと、改めて決心した。その決心はまた、自分の身の安全について感じていた恐怖心も、たちどころにどこかに追いやってしまったのである。

『Fifty Deadmen Walking / IRA潜入逆スパイの告白』より

 カトリックの人々を守るはずのIRAが、カトリックの人々を傷つけ理由もなく殺してしまう。暴力で勝ち取ろうとする正義は、結局は多くの矛盾を孕み、出口の見えない争いを続けるだけの結果となってしまうのに違いありません。

 
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