コメディ動画で生産性アップ!?

 Laughter is the tonic, the relief, the surcease from pain. – Charles Chaplin

 笑いは活力であり、安らぎであり、痛みからの一時の解放だ
 (チャールズ・チャップリン)

[語註]
laughter 笑うこと、笑い
tonic (人の気持ちを)元気づける(明るくする)もの、強壮剤
surcease (一時的な)停止、休止

 「幸せな気持ちで物事にとり組むと、生産性が約12パーセントアップする」という実験結果があるそうです。英国のウォーリック大学(University of Warwick and IZA)のオズワルド氏(Andrew J.Oswald)らによる研究です。被験者は713人、皆英国のエリート大学に通う若い男女で、実験は数年にわたって行われました。

 被験者に与えられた課題は単純な計算問題。問えば(31+56+14+44+87=?)のような「5つの2桁の数字を合計する」という問題を、制限時間10分以内にどれだけ数多く正解できるかというものでした。

 その際、被験者が課題に取り組む前に「コメディムービーを見せる」、「作業時にチョコレートや果物などを支給する」、「作業前にアンケートをとり、直近に起こった家族内での悲しい事件について思い出させる」等の処置を行うグループに分けた上で、これらの処置を行っていないグループと結果を比較しました。

 すると、コメディを見て幸福度が高まったグループと見なかったグループでは、前者のチームのほうが成績がよく、また、チョコレートや果物が振る舞われたグループも同様にパフォーマンスはよかったそうです。全体の平均正解数は20問弱でしたが、上記の処置を行ったグループは行わなかったグループより正解数が平均で約2問多い、すなわち約10%〜12%改善したという結果になりました。

 他方、悲しい事件を思い出してしまったグループは逆に生産性が落ちたこともわかりました。

 オズワルド氏は「人間の幸福は労働生産性に強力な因果関係を持ち、その影響は作業の質ではなく量として現れる」と結論づけています。

※Happiness and Productivity

 気になったのは研究内容の本質からちょっと外れてしまいますが、次の2つの点です。

 一つ目は、被験者用に提供されたチョコレートはどこの銘柄かというはなはだ枝葉末節な部分。英国人を幸せな気持ちにするチョコってどんな味かを知りたくなったのです。

 論文によれば「キャドバリー・ヒーローズ(Cadbury Heroes)」と「マース・セレブレーションズ(Mars Celebrations)」のチョコバーとのことです。

※キャドバリー・ヒーローズ(Cadbury Heroes)

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 そして二つ目は、被験者が見たのは誰のコメディ動画かということです。英国人はどんなコメディアンのどんなネタに笑い、幸福度をアップさせるのでしょう?

 補足資料によれば、オズワルド氏らが被験者に見せたコメディ動画は、ビル・ベイリー(Bill Bailey)氏のスタンドアップ・コメディでした。

 ベイリー氏は1965年、英国の南西部サマセット州キーンシャムの生まれ。コメディアンとしてだけでなく、ミュージシャン、俳優、テレビ司会者等としても活躍しています。2003年にはThe Observer(オブザーバー誌)が選ぶ The 50 funniest people in Britain(英国で最も面白い50人)等に選ばれています。

※”The 50 funniest people in Britain”. The Guardian. 7 December 2003.

 2003年にスコットランドの首都、エディンバラで行われたベイリー氏のスタンドアップコメディショー「Part Troll(パート・トロール)」から、彼の笑いを覗いてみることにしましょう。

 日本で暮らす私たちにとっては、海外のコメディは言葉の意味だけでなく、その国の文化や歴史、同時代の流行や価値観などを理解できないと、「思わず笑ってしまう」とはいかない場合が多々あります。

 少々時間はかかりますが「なぜ可笑しいのか」「なぜ笑えるのか」を理解しようとする過程自体が楽しく、わくわくします。じわじわと笑いがこみあげてくることもあります。

 先ずショーのタイトル「Part Troll(パート・トロール)」についてです。「troll(トロール)」は北欧神話に登場する妖精です。ジブリ映画「となりのトトロ」のトトロのモデルになったことでも知られています。「ハリー・ポッター賢者の石(Harry Potter and the Philosopher’s Stone)」では、ホグワーツ城のトイレで暴れ、ハリーたちに退治されてしまいます。トロールは毛むくじゃらの巨人とも言われていますが、人間の姿にも変身できるそうです。

 「パート・トロール(Part Troll)」のポスターでは、ベイリー氏が背広に山高帽、手にはティーカップという英国紳士スタイルで立っています。ところが、その背後からは緑色の尻尾が伸びているのがわかります。つまり、ベイリー氏自身がトロールの化身、半魚人ならぬ半トロール人(Part Troll)だというわけです。

 ベイリー氏のもじゃもじゃの髪、大柄でどこかコミカルな動きもトロールを連想させます。

That is how I’ve seen myself over the years, trying to blend into normal society, but always feeling slightly at odds.

それが長年にわたり私が自分自身を見てきた姿だ。普通の社会に溶け込もうと努めながらも、いつもどこか違和感を抱き続けてきた。

※What I see in the mirror: Bill Bailey
(The Guardian、2010年12月4日)

[語註]
feel at odds with
~に違和感を覚える

 「人間社会に溶け込もうとするけど、完全には馴染めずどこかずれている」というベイリー氏自身の感覚を表現するために、「パート・トロール(Part Troll)」というタイトルにしたそうです。

 では、このショーの中から、「U2 Failure」という演目を見てみましょう。

 ステージ中央でギターを抱えたベイリー氏が演奏を始め、こう叫びます。”You know that band U2, right?” (U2ってバンド知ってるだろう?)

 U2は、スコットランドのお隣、アイルランドのロックバンド。世界で最も権威のある音楽賞の一つ「グラミー賞」を、なんと22回も受賞しています。

 楽曲の特徴の一つは、ギタリストであるジ・エッジ(The Edge)が奏でるギターの音色です。1980年代に登場したばかりのサウンドエフェクト「デジタルディレイ」をいち早く取り入れ、独自の演奏方法を確率しました。「デジタルディレイ」は山びこのように、音を遅らせて何度も鳴らすカラオケのエコーのような音効です。

 U2の大ヒット曲、”I Still Haven’t Found What I’m Looking For”を模したようなフレーズを奏でながら、ベイリー氏は続けます。

 

They basically have this one sound, don’t they?
Some old Celtic bollocks!
The Edge, yeah, right.
So, without these effects, they’re nothing, right?
It’s just all effects.
Even a troll-like figure can recreate them.
I’ll give you a demonstration of a catastrophic technical failure at the U2 gig, right?

基本的に彼らにはこの一音しかないんだ。そうだろう?
ケルトの古臭いクソみたいな音楽さ!
エッジ?ああ、そうだな。
だから、あのエフェクトがなきゃ彼らは何者でもないんだ?
全部エフェクトのおかげだ。
トロールみたいな奴(俺)だって再現できるんだぜ。
U2のライブで起きた最悪の技術的失敗の実演を見せてやるよ、いいか?

[語註]
Celtic ケルト族[人・語・文化]の
bollocks くだらないこと、ばかげたこと
a troll-like figure 北欧神話の巨人「トロール」のような外見を持つ人物
catastrophic 壊滅的な、最悪の

 悦に入って演奏するベイリー氏ですが、突然エフェクターが故障。慌てたスタッフがステージに上がり、調整を試みますが上手くいきません。

 すると、それまで重厚な「山びこ音」が響き渡っていた会場が一瞬で静かになり、今度はベイリー氏が実際に弾いていた音効なしのメロディーが細々と聴こえてきます。

 ”Jingle Bells, Jingle Bells, Jingle all the way…”

 ご興味のある方は、ぜひ実際の動画でお楽しみください。

※Bill Bailey – U2 Failure – Part Troll

[参照資料]

※Happiness & Productivity(補足資料)

※U2 – I Still Haven’t Found What I’m Looking For (Official Music Video)

※『ハーバード、スタンフォード、オックスフォード… 科学的に証明された すごい習慣大百科 人生が変わるテクニック112個集めました』(堀田 秀吾 著)

 
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