アカデミー賞映画『CODA』で手話体験
The Oscar goes to CODA.
(アカデミー賞は『CODA』に贈られます)
※go to :〈ものが〉〔…の手に〕渡る。与えられる。
2022年の第94回アカデミー賞最優秀作品賞は『CODA』でした。『CODA』は”Child of Deaf Adults”の略語で「ろう者の親を持つ子ども」という意味です。また、楽曲の終わりを表す音楽記号。あらたに次の章が始まるというニュアンスもありそうです。
映画の舞台はマサチューセッツ州にある小さな海の町です。両親と兄の4人家族の中でひとりだけ耳が聞こえる高校生のルビーは、家族のために手話の通訳となり、家業の漁業を手伝う日々を送っていました。ある日、所属する合唱クラブの顧問が彼女の歌の才能に気づき、バークリー音楽大学への進学を勧めます。しかし、両親は反対します。
映画の中で大きな役割を果たすアメリカ式手話(ASL: American Sign Language)ですが、世界には200以上の手話があるそうです。アメリカ式手話は、フランス式手話(LSF: langue des signes française)の系譜をひいており、英語圏のイギリスで使われるイギリス式手話とは異なります。
また「英語手話」というものは存在しません。手話は、ろう者の間で用いられる言語であり、英語という音声言語を視覚化したものではないからです。つまり、同じ英語圏のアメリカ人とイギリス人でも、手話では理解しあうのが難しいということになります。
米国アカデミー賞の約2週間前に行われた第75回英国アカデミー賞(BAFTA)の授賞式では、ルビー役のエミリア・ジョーンズ(Emilia Jones)が、映画の中で歌った楽曲『Both Sides Now』(青春の光と影)を披露しました。
ステージ上には彼女を挟み、向かって左手にはアメリカ式手話の通訳が、右手にはイギリス式手話(BSL: British Sign Language)の通訳が歌詞を訳しています。情感を伝える二人の動きは美しい舞いのようです。その一方で、二つの手話がいかに異なる言語であるかということもよくわかります。
※Emilia Jones – Both Sides Now – BAFTAs 2022 Perfomance (from CODA)
たとえば、”LOVE”(大好き/愛する)は、アメリカ式手話では、拳を作り手の甲を相手側に向けた両腕を、胸の前で交差させ引き寄せます。一方、イギリス式手話では腕の動きは同じですが、手は開いたままです。
”DREAM”(夢)は、アメリカ式手話では右手人差し指を曲げて、こめかみからその指を動かしながら上げていきます。イギリス式手話では右の掌で頭をこするような仕草をします。
”FRIEND”(友達)は、アメリカ式手話は両手の人差し指を斜めに組み合わせ、上下を入れ替えてまた組み合わせます。これに対して、イギリス式手話は左手の甲を右手で包み込みます。
ちなみに日本の手話で、「愛」は左手で拳をつくり、左胸の前に置き、右掌で2周分さすります。 「夢」は右手を開いて指先を上に向けて、こめかみから揺らしながら上げます。「友達」は両手の掌をしっかり握ります。
英語を学ぶことによって世界が広がったように、手話が新たなコミュニケーションの扉を開くかもしれません。映画『CODA』がそのきっかけとなるを作ってくれそうです。
(*) 参考図書
『しっかり学べるアメリカ手話』(土谷道子 著)
(*) 参照リンク
ASL Sign Language Dictionary