映画『Cold Mountain (コールドマウンテン)』で南部アメリカ英語マンツーマンレッスン
なぜ、アメリカ南北戦争は起こったのでしょうか?
一般的に南部諸州の奴隷制度を巡る戦いと言われますが、当時の大統領エイブラハム・リンカーンの本来の目的は、奴隷制の廃止ではありませんでした。彼の究極の目的は、アメリカ政府(北部側)が南部の広大な土地と資源、そして市場を支配し続けることでした。
映画『Cold Mountain(コールドマウンテン)』の舞台となるサウスカロライナ州のアパラチアには、他の南部の平地地方と異なり、気候が厳しく土壌が痩せていたために大農園はなく、奴隷を所有できる農民も少なかったので、戦争の意味の捉え方も違っていました。「なぜアメリカ人同士が血で血を洗うような戦いを続けるのか?」という疑問を映画でも描いています。
主人公のエイダ(Ada)は牧師の父とともに、チャールストンからコールドマウンテンの山間に越してきます。急病で父を亡くしてしまったエイダは、地元の少女ルビー(Ruby)と共同生活を送ることになります。興味深いのは、この二人の話す英語が全く異なるのです。原因は二人が生まれ育った境遇の違いにあるようです。
同名の原作小説によれば、エイダは父親の方針で、徹底的に教育を受けます。芸術、政治、文学、フランス語、ラテン語、ギリシャ語、編み物、刺繍、ピアノ、鉛筆画、水彩画。よく本も読みました。ところが、自給自足で生活を送らなければならない戦時下では、このエイダの能力はひとつも役に立ちませんでした。
一方、ルビーは生まれたときから母親を知らず、父親は近所で有名な問題人間。家に木の床はなく、地面にじかに住み、壁から突き出した棚で寝起きし、乾いた苔を袋に詰め込み、マットレス代わりに使っていました。おそらく学校に通ったことはなく、文字は独学で学んだのでしょう。
そんなルビーが一人では何もできないエイダを手伝いにやってきます。映画で二人が初めて出会うシーンです。ルビーには南部アメリカ英語の特徴である g-droppingsの傾向がみられ、語末の-ingのg音はほとんど抜け落ちています。また、「I ain’t a servant」と、ルビーは 頻繁にain’tを使用しているのにたいして、アイダは「You’re not a servant」とain’tをare not言い換えて復唱するなど、ain’tを決して使いません。同じ南部生まれでも、二人が生きてきた環境がこの瞬間まで全く異なっていたことが良くわかるシーンです。
Ruby:
That cows wants milkin’. If that letter ain’t urgent, then cows is what I’m sayin’.
手紙を書くより 牛のお乳をしぼった方がいいんじゃない?
Ada:
I don’t know you.
あなたは?
Ruby:
Old lady Swanger says you need help. Here I am.
サリー・スワンがーがここの手伝いをしろって
Ada:
I… I need help but… I need… I do need help, but I need a labore.
手伝いは必要だけど力仕事ができなくては…
There’s… there’s plowing and rough work. I think there’s been a misunderstanding.
畑を耕したり 物を運んだりするのよ。 せっかくだけど
Ruby:
What’s that rake for?
その熊手は?
Ada:
The rake?
熊手?
Ruby:
Well, it ain’t for gradenin’, that’s for sure.
花壇のお手入れ?
Number one, you got a horse? I can plow all day. I’m a worker.
1つ あたしは畑仕事が得意
Number two, ain’t no man better’n me.
2つ 男もかなわない
’cause there ain’t no man around who ain’t old or full of mischief.
残っている男は年寄りと子供だから
I know your plight.
不運は聞いたわ
Ada:
My plight?
不運?
Ruby:
Am I hard to hear? Cause you keep repeatin’ everythin’.
いちいち聞き返さないでよ
I ain’t look’ for money. I never cared for it and it ain’t worth nothin’.
お金は要らないわ 価値がないから
I expect to board and eat, at the same table.
食事と寝床だけ
I ain’t a servant, if you get my meanin’.
メイドじゃないから同じテーブルに
Ada:
You’re not a servant.
メイドじゃない
Ruby:
People’s gonna have to empty their own night jars is my point.
寝室の便器は自分で始末する
And I don’t expect to work whilst you sit around and watch, neither.
あんたも働くのよ
Ada:
Right.
Ruby:
Right. Is that a yes or a no?
それはイエス? ノー?
二人は共同生活を始め、ルビーはエイダに畑仕事や狩を教えます。エイダはルビーに『嵐が丘』を読み聞かせ、亡き父への想いを語り、戦地にいる恋人インマンに対する気持ちを打ち明けます。それまで全く重なることがなかった二人の人生が、お互いの心根を垣間見るうちに、二人の間に信頼が生まれ、友情が芽生えていきます。
▽サウスカロライナ州
アパラチアはかつてチェロキーが静かにくらしていた場所です。ところがアメリカ合衆国によってその地を追われてしまいます。チェロキーの「高い山の頂は天国と接している」という言葉から、「コールドマウンテンがその場所だ」と信じられるようになる原作のエピソードが印象的です。
(*)参考図書
『学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史』
(ハワード・ジン著)
『コールドマウンテン』
(チャールズ・フレイジャー著、土屋政雄訳)
『ロックを生んだアメリカ南部』
(ジェームス・バーダマン 村上薫共著)