なぜ”Black Friday”(暗黒の金曜日)が特売日に?

 「今年がんばったあなたへ、Amazon ブラックフライデー。いよいよ今年最後のビッグセール」。

 先日まで何度も耳にしたAmazonのCMです。米国では次のようなCMソングが流れていました。

 Amazon has so many deals on Black Friday this year.
 今年のブラックフライデーは、アマゾンのお買い得商品が目白押しだ。
[語注]
deals
掘り出し物、バーゲン品、お買い得品

 Black Fridayを直訳すると「暗黒の金曜日」。それがなぜ「ビッグセール」の呼称になっているのでしょうか。1869年9月24日金曜日にアメリカのウォール街で起きた金融恐慌は、Black Friday(暗黒の金曜日)と呼ばれています。

 Black Fridayが「ビッグセール」に使われるようになった経緯が、下記のサイトによくまとめられていました。

※The Origins of “Black Friday”
  (November 25, 2011 | By Ben Zimmer)

 現在米国では11月の第4木曜日がThanksgiving Day(感謝祭)の祝日で、翌日の金曜日が”Black Friday”と呼ばれています。年末まで続くクリスマス商戦のキックオフの日という位置づけです。

 リサーチャーのボニー・テイラー=ブレイク(Bonnie Taylor-Blake)さんによれば、感謝祭の翌日を”Black Friday”と呼んだ最も古い例は、『Factory Management and Maintenance』という業界雑誌1951年11月号だそうです。タイトルは「What To Do About “Friday After Thanksgiving”」(「感謝祭明けの金曜日」をどうするか)という記事です。

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 当時、感謝祭の翌日の金曜日は、多くの労働者が体調不良などと偽り欠勤したそうです。祝日の木曜日に続き、金曜日も休めば4連休になるからです。

 まるでペストでも発生したかのように、一斉に病欠する労働者たち。工場の生産は計画通り進まず、経営者は頭を抱えます。そんな状況を、ユーモア―も込めて “Black Friday”(暗黒の金曜日)と表現したのかもしれません。

“Friday-after-Thanksgiving-itis” is a disease second only to the bubonic plague in its effects. At least that’s the feeling of those who have to get production out, when the “Black Friday” comes along.

「感謝祭後の金曜日病」は、ペストに次ぐ影響力を持つ病気である。少なくとも「ブラックフライデー 」がやってくると、生産を中止しなければならない人たちはそう感じるだろう。

— What To Do About “Friday After Thanksgiving”
『Factory Management and Maintenance』

[語注]
-itis
~病
冗談や言葉のあやとして、人の好ましくない状態(無気力など)を表す架空の病名を作る。senioritis(もうすぐ卒業なので学習意欲をなくすこと)、loseritis(ぐうたら病)など。

the bubonic plague
腺ペスト

 1960年代初頭フィラデルフィアでは、感謝祭翌日の金曜日にショッピング街が人や車でごった返す様子を、警官たちは「Black Friday」と表現するようになりました。テイラー=ブレイクさんは1961年の同市の広報誌Public Relations Newsで、「Black Friday」が使われている記事を発見しました。

For downtown merchants throughout the nation, the biggest shopping days normally are the two following Thanksgiving Day. Resulting traffic jams are an irksome problem to the police and, in Philadelphia, it became customary for officers to refer to the post-Thanksgiving days as Black Friday and Black Saturday.

全米の繁華街の商店にとって、最大のショッピング・デーは通常、感謝祭に続く二日間である。その結果生じる交通渋滞は警察にとって厄介な問題であり、フィラデルフィアでは感謝祭後の週末を、ブラックフライデーとブラックサタデーと呼ぶのが警官の慣例となった。

— Public Relations News, Dec. 18, 1961, p. 2.

[語注]
traffic jams
交通渋滞

irksome
厄介な、イライラするような

 しかし、PR誌で使われたこの表現は商業界の人々には不人気でした。交通渋滞を避けようとして、客足が遠のいてしまう。商売上マイナスのイメージだと言うのです。彼らは代わりにBig Fridayという言葉を使おうとしましたが、広まりませんでした。

 他方、Black Fridayはフィラデルフィアのみならず、全米に拡散してゆきました。店内に溢れる買い物客に、ある種の恐怖を感じながらも、この大混雑をBlack Fridayと呼ぶことに、人々は皮肉とユーモア―を感じ、適切な表現だと受け入れたのかもしれません。つまりBlack Fridayには多かれ少なかれ必ず否定的な意味合いが含まれていると、テイラー=ブレイクさんは考えています。

 テイラー・ブレイクさんによれば、Black Fridayに企業が「黒字になる」という意味合いが登場し始めたのは1980年代に入ってからとのこと。Black Fridayをより前向きなニュアンスで再ブランディングするために、「Black Fridayのblackは、”back in the black “(黒字回復)のblackだ」という説明が用いられるようになりました。

 ちなみに日本語の「黒字」という言葉は、明治時代にイギリスから伝わった複式簿記から派生した外来語です。複式簿記では支出が収入を上回った場合は赤のインクで、逆に収入が支出を上回った場合は黒インクで記載していました。

[例文]

 A’s PC business is in the red.
 A社のPC事業は赤字だ。

 We are in the black this month.
 今月は黒字だ。

 たくさんの人で溢れかえる様子を日本語では「黒山の人だかり」と言ったりします。Black Fridayの語源にもどこか似ていて、興味深いですね。

 ところでBlack Fridayの前日のThanksgiving Dayを、海外の人々はどのように過ごしているのでしょうか。日本のお正月に似ているとの説明も目にします。人それぞれ、家族それぞれに異なった過ごし方がありそうです。

 ETCの英会話レッスンで、先生のThanksgiving Dayの過ごし方を質問してみてはいかがでしょうか。

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