ミュージカル『ハミルトン』で英会話
History has its eye on you
(歴史はあなたを見つめている)
ミュージカル『ハミルトン』は2016年第70回トニー賞(2016年6月12日開催)において、13部門16ノミネートという史上最多のノミネートを記録し、11部門の受賞に輝きました。
ミュージカル作品賞、ミュージカル脚本賞、オリジナル楽曲賞、ミュージカル主演男優賞、ミュージカル助演男優賞、ミュージカル助演女優賞、ミュージカル装置デザイン賞、ミュージカル衣装デザイン賞、ミュージカル照明デザイン賞、ミュージカル演出賞、振付賞、編曲賞の受賞という結果から、この作品がいかに幅広い分野で話題となり、高い評価を受けたことがわかります。
2021年末、この作品が字幕付きでオンラインで視聴することができるようになりました。ミュージカルファンを中心に話題になっています。
※ブロードウェイミュージカル「ハミルトン」US予告編 – Disney+
『ハミルトン』はアレグサンダー・ハミルトン(Alexander Hamilton)の激動の人生を描いた作品です。ハミルトンはアメリカ合衆国建国の父の1人で、ワシントン大統領の右腕と称され、初代財務長官と説明されてもピンと来ないかもしれません。
でも「10米ドル紙幣の肖像画の人」と言われると、その顔形が思い浮かぶ方は多いのではないでしょうか。
脚本・作曲・作詞・主演を務めたのはリン=マニュエル・ミランダ(Lin-Manuel Miranda)さん。ロン・チャーナウ(Ron Chernow)さんが書いたアレキサンダー・ハミルトンの伝記『Alexander Hamilton』(翻訳本:『アレグザンダー・ハミルトン伝〜アメリカを近代国家につくり上げた天才政治家』)を読んで着想を得たそうです。
ほとんどを独学で学び、暇を見つけては本を読んでいたハミルトン。文筆家志望でもあった彼は、自らの苦しい境遇を詩に書き上げました。ミランダさんはハミルトンの文章を読んで「彼はラッパーだ」と感じたそうです。
ミランダさんの作る楽曲はエネルギーに溢れています。200年以上も前の出来事なのに、今まさに現在進行形で起きているような事件のように、観ている人々の心を揺さぶります。
How does a bastard, orphan,
son of a whore and a Scotsman,
dropped in the middle of a forgotten
spot In the Caribbean
by providence impoverished In squalor,
grow up to be a hero and a scholar?
私生児で孤児で 売女とスコットランドの息子
カリブ海の忘れられた島に生まれた
神の定めで極貧の子が
なぜ英雄の学識者になった?
(中略)
My name is Alexander Hamilton.
And there’s a million things I haven’t done.
But just you wait, just you, wait.
私の名は アレグサンダー・ハミルトン
まだ何も成していない
だが見ていろ 今に見ていろ
「Alexander Hamilton」より抜粋
※”Alexander Hamilton” from HAMILTON
オープニングナンバーのこの楽曲も、“orphan”、“Scotsman”、“forgotten”、“Caribbean”が、そして “squalor”、“scholar”が、ラップには欠かせない韻を踏んでいることがわかります。
心地良くうねるようなヒップホップの楽曲が、『ハミルトン』をミュージカルという幅狭なジャンルから飛び出させて、若い世代への橋渡しをするようになりました。
ニューヨークで高校教師を務める ジム・カレン(Jim Cullen)さんは、『ハミルトン』の楽曲が生徒たちの間で大流行りしていることに気が付きます。生徒たちはヒットチャートを聴くように、スマホやモバイル機器で『ハミルトン』の楽曲を再生して、皆で歌っていたそうです。
They were singing these songs the way they might sing the latest release from Drake or Adele
(ドレイクやアデルの最新作を歌うように、これらの曲を歌っていたのです)
※Drake (ドレイク):カナダ出身のラッパー
※Adele (アデル) :イギリスの歌手
多くの米国の学生たちにとって、建国の歴史は遠い過去のこと。ワクワクドキドキすることがない教科書の中の出来事でした。ところがミュージカル『ハミルトン』は、彼らに自分たちの歴史を振り返るきっかけを与えました。
『ハミルトン』のプロデューサーたちは、ニューヨーク市立高校の低所得家庭の2万人の生徒たちがチケットを割引価格の70ドルで購入できるようにしました。ブロードウェイで上演が開始された2015年9月時点で、チケットの平均価格は約159ドルでした。
さらに、ロックフェラー財団は150万ドルを寄付し、生徒1人当たり10ドルで観劇できるようにしました。もし、その10ドルも子供たちが払えない場合は、学校が負担することもありました。
この取り組みにより、2年間で最大2万人の公立学校の子供たちがこの大ヒットミュージカルを鑑賞し、授業で学ぶことが可能になりました。
2016年3月14日、ミシェル・オバマ大統領夫人は、ホワイトハウスに『ハミルトン』のブロードウェイキャストと学生を迎え、ワークショップを開催しました。実際に作品を鑑賞したオズボーン高校のフアン・サパタ(Juan Zapata)さんは、出演者に次のような感謝の言葉を述べています。
I’m not a really bright student in the history department. I’ve learned so much from this musical that I wouldn’t have normally learned in history class. And for you guys to convey history in the manner that you did was that your initial goal to inspire kids like me.
私は歴史学科でそれほど優秀な生徒ではないのですが、このミュージカルから、普段の歴史の授業では学べないようなことをたくさん学びました。皆さんがあのような形で歴史を伝えるのは、私のような子供たちにインスピレーションを与えるのが最初の目的だったのでしょう。
※The First Lady Delivers Remarks at “Hamilton at the White House” Workshop
『ハミルトン』はミュージカル愛好家のみならず、音楽ファン、歴史ファンにもお薦めの作品です。本来であればニューヨークに行かなければ見られなかった作品が、ディズニープラスで視聴(有料)することができます。ご興味のあるかたはぜひ。