2021年英国版流行語大賞は”Vax”

 Vax is our 2021 Word of the Year.

 オックスフォード大学出版局(Oxford University Press)は、毎年「Word of the Year」(今年の言葉)を発表しています。2021年の言葉は”vax”でした。

  “vax”は、名詞では “vaccine”(ワクチン) または “vaccination”(ワクチン接種)、動詞では “vaccinate”(ワクチン接種をする)と同意語です。1980年代から一般的な用語として使用されるれるようになったそうで、主に会話の中で口語的に使われます。

 ニュース等では、 “vax”はタイトル文の中でよく使われ、ニュース本文では “vaccine” “vaccinate”等に置き換えて使われることが多いようです。

Billie Eilish reveals she got COVID, ‘would have died’ if she wasn’t vaxxed

(ビリー・エイリッシュ、COVIDに感染したことを明かす。ワクチン接種してなかったら「私は死んでいた」)

(*) be vaxxed: ワクチンを接種する

As of monday, all zoo visitors 12 and older must be fully vaxxed

(月曜日より、12歳以上の動物園入園者は2回のワクチン接種終了が必要)

(*) be fully vaxxed : 2回のワクチン接種が終了している

4 travelers from Manila held in Bacolod for fake vax cards

(マニラからの旅行者4名が偽のワクチンカードでバコロドで拘束される)

(*) vax cards : ワクチン接種カード、COVID-19 ワクチン接種の公式記録

Cebu City opens 22 pop-up vax sites in bid for herd immunity by year end

(セブ市、年末までに集団免疫を獲得するために22の期間限定のワクチン接種会場を開設)

(*) vax sites : ワクチン接種会場

Vax or Anti Vax? – A Personal Opinion

(ワクチン接種か、それともワクチン接種に反対か? – 個人的な意見)

(*) anti-vax : ワクチン接種反対の、反ワクチンの

 ”vaxxie”という新造語も生まれました。”selfie”(自撮り)と”vax”をかけ合わせた言葉です。ワクチン接種中やその直前、直後に自撮りをすることを意味します。

 ワクチン接種を勧める米国俳優アラン・アルダ(Alan Alda)氏が、次のように呼びかけたのが、新造語拡散のきっかけとされています。アルダ氏は医療テレビドラマ『マッシュ』(M*A*S*H)で外科医を演じていたことでも知られています。

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If it’s possible to take a selfie while you’re getting your shot, and post it on… social media, the people you know, trust you, and you can spread the word that way, so instead of taking a selfie, take a vaxxie.

(もし、ワクチン接種中に自撮りができて、SNSに投稿することが可能であれば…知り合いはあなたを信頼しているので、情報を拡散することができます。だから自撮りの代わりに、ヴァクシーを撮影してください)

アラン・アルダ氏ツイート、2020年12月21日

 「ワクチンを注射する」という意味では、”get the jab” (主に英国) や”get the shot” (主に米国)が使われます。

Boris Johnson addressed the nation on Sunday (December 12) advising people to get their booster jab

(ボリス・ジョンソン氏は12月12日(日)に国民に向けて、ブースター接種を勧めた)

The Air Force has discharged 27 people for refusing to get the COVID-19 vaccine, making them what officials believe are the first service members to be removed for disobeying the mandate to get the shots.

(空軍は、COVID-19ワクチンの接種を拒否した27人を除隊させた。これは、空軍関係者が、ワクチン接種の義務に従わないことを理由に除隊させられた初めての軍人であると考えている)

 ”vaccine”の語源は「牛の、牛に由来する」(vacca)というラテン語です。そもそも「牛」と「ワクチン」の関係とはどのようなものでしょうか。この言葉が初めて記録されたのは1799年までさかのぼります。

 18世紀のロンドンでは、人口の3分の1が天然痘にかかっていました。天然痘の致死率は3割にも及び、幸運にも生き残ったとしても、失明したり、身体に障がいが残ったり、発疹のあとがあばたになって顔に残ったりしました。

エドワード・ジェンナー(Edward Jenner)

 英国人の医師エドワード・ジェンナー(Edward Jenner、1749-1823)は、「牛乳しぼりの女性は天然痘にかからない」といううわさ話から、「一度牛痘(軽い天然痘)にかかると、より致死率の高い天然痘を身体に寄せ付けない仕組み(免疫)ができる」という着想を得ます。彼は牛痘の膿疱や痘痕から採取した物質を、天然痘の予防接種として使用することを世界に先駆けて行いました。

 この「牛痘(または痘瘡、膿疱)」をそのものを意味する言葉として、ジェンナーはラテン語の”vacca”(牛の、牛に由来する)という言葉から派生させて、”variolae vaccinae”という表現を使いました。

 牛痘を人間に摂取するというジェンナーの研究は、直ぐには受け入れられませんでした。ジェンナーは、牛痘で天然痘を予防できるという事実を、当時最高権威を誇ったイギリス王立協会に報告書として提出しますが、全く取り合ってもらえませんでした。それどころか、「種痘した人々に牛の角が生える」という巷説も広まり、当時の風刺画にはその様子が描かれています。

ジェームズ・ギルレーによる風刺画

 1812年にジェンナー自身が書いた手紙には、次のように綴られています。

The Anti-Vacks are assailing me… with all the force they can muster in the newspapers.

(ワクチン反対派は、新聞でありったけの力で私を攻撃している)

 ”anti-vaccinist”, “anti-vaccinator”, “anti-vaccination”,” anti-vax”(いずれもワクチン接種に反対する意)などの言葉が初めて記録されたのも、この手紙が書かれたのと同じ19世紀初頭だそうです。

 それから数十年後、今度はフランスの科学者ルイ・パスツール(Louis Pasteur、1822-1895)の研究を通して、vaccine(ワクチン)、vaccinate(ワクチン接種)、vaccination(予防接種)という言葉が広く使用されるようになりました。

ルイ・パスツール(Louis Pasteur)

 天然痘が根絶されたのは、ジェンナーの研究から約200年後。1980年5月8日にWHOは地球上からの天然痘根絶宣言を行っています。

 ご参考まで、オックスフォード大学出版局が選出した過去5年の「Word of the Year」は次の通り。

◎2016年 “post-truth”
「客観的な事実よりも、感情や個人的な信念への訴えの方が、世論を形成する上で影響力が強い状況」という形容詞

◎2017年 “youthquake”
「若者の行動や影響から生じる、文化的、政治的、社会的な大きな変化」という名詞

◎2018年 “toxic”
「毒のある」という形容詞

◎2019年 “climate emergency”
「気候緊急事態」という名詞

 2020年は、様々な事象があり一つの言葉に絞り込むことは適当でないとの理由で、選出されませんでした。ご興味のあるかたは下記のサイトを参照されてみてください。

Word of the Year (Oxford Language)

 2021年の残りわずかとなりました。今年を振り返りあなたの「Word of the Year」を見つけてみてはいかがでしょうか。

 
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