映画『イエスタデイ』の英会話仮定法
(もしも自分以外はビートルズを知らない世界になっていたら! )
現在上映中の映画『イエスタデイ』のキャッチコピーです。
主人公は売れないシンガーソングライターのジャック。世界規模で12秒間の謎の大停電が発生し。その真っ暗闇の中で、彼は交通事故に遭遇。昏睡状態から目を覚ますと、世界中でビートルズを知っているのは自分ひとりだけ。あのビートルズが存在ない世の中になっていました。
このキャッチコピーの “if everyone FORGOT~”の部分、「if節」に注目してみましょう。
「もし~ならば」という条件を述べる「if 節」ですが、大きく2種類の使い方があります。
まずひとつめは、”if everyone FORGOT~”のような「if+過去形」の「仮定法」です。これは「有り得ないことが分かっている場合」、または「有り得 ない可能性が非常に高い場合」を表現しています。
つまり、”if everyone FORGOT~”(「if+過去形」)で「自分以外はTHE BEATLESを知らない世界になる」ことなんて有り得ない、というニュアンスを表現しています。
もうひとつは「if+現在形」という形。これは「有り得るかもしれないし、有り得ないかもしれない」という「単なる条件」を表現しているだけ。「条件法」と呼ばれています。
次の例文でその違いがよく分かります。
1)「仮定法・if +過去形」(夢の世界)
If I had time, I would help you
(時間は取れない。もし取れれば手伝ってあげられるのだけれど)
2)「条件法・if +現在形」(現実世界)
If I have time, I will help you.
(時間が取れるかもしれない。もし取れれば手伝ってあげる)
2)の If I have time は「もし時間があれば」という条件ですが、「if + 現在形」の場合、話し手は時間が取れる可能性があると考えています。不確定要素はありますが、現実離れはしていません。こう言われた聞き手は手伝ってもらえる可能性を期待することになります。
他方、2)の If I had time 「if + 過去形」は、「時間はとれない」ということを表現していて、不可能なことを言っている空想の世界の話になり ます。「手伝ってあげたい気持ちはあるが、どうやりくりしても時間を捻出できるような状況にはない」時などに使う表現でしょうか。この場合は聞き手は手伝いは期待せず、その気持ちだけありがたくいただく、という感じになるのかもしれません。
もう一つこんな例文があります。
1)「仮定法・if +過去形」(夢の世界)
If I became president, I would lower taxes.
2)「条件法・if +現在形」(現実世界)
If I become president, I will lower taxes.
どちらも、「もし私が大統領になれば、減税します」という日本語訳になりそうですが、元の英文が伝えている内容は異なります。
まず、2)は become と現在形。ですから2)の話し手は「大統領になれる」と思っています。
他方1)はbecameと過去形になっていますから、夢の世界の話し。1)の話し手は「大統領になれる」とは思っていません。もしくは非常に可能性は低いと思っていることになります。
例えば、大統領選挙に立候補している人が、1)のように発言したら、自信がないと思われ、そのような人は当選しないでしょう。
「QUORA」という質問と回答を集めたSNSでは、こんな話題で盛り上がっていました。
If you became president of the US, what would be your priorities?
(もしあなたが大統領になったら、最初にすることは?)
If you became became と過去形になっていますから、「夢の世界」の話し。大統領選挙の候補者ではない、一般の市民と思われる方々が、思い思いの夢や希望を投稿しています。
他方、BBCのサイト「US Election 2020: How do you become president?」 (2020年米国選挙:大統領になるには)には、「if+ 現在形」の構文が使われているのが確認できます。
If the candidate wins this vote, they finally become president and officially start the job on 20 January the following year.
(もし候補者が選挙で勝利したら、候補者は最終的に大統領になります。そして翌年の6月20日より正式に仕事が始まります)
この場合「大統領になる」ことは空想の話しではありません。選挙の結果でなれるかもしれないし、なれないかもしれないという現実世界の話です。 ですから、If the candidate won this vote 仮定法の「if+ 過去形」ではなく、If the candidate wins this vote のように、条件法の「if+現在形」が使われているのが確認できます。
さて、映画『イエスタデイ』の「自分以外はビートルズを知らない世界」では、いったい何が起こっているのでしょうか。
なんと名曲「Hey Jude」が、このタイトルが妙だと感じたエド・シーランによって「Hey Dude」に変えられてしまいました。「Jude」とは、ジョン・レノンと最初の妻との間に生まれた長男ジュリアン・レノンのこと。彼のことを考えて作ったというポール・マッカートニーのエピソードを、ジャックが自分の話として伝えますが、残念ながら通用しません。
同映画のパンフレットに執筆したピーター・バカランさんによれば、この「Dude」という言葉は、時代と共にそのニュアンスが変わってきているとのこと。元々は都会的で粋な人(男)という使い方だったそうですが、最近では男同士の会話で軽くいう「野郎」という程度の意味。「hey dude」といえば仲間と会った時の「オーッ」という挨拶のようなものだそうです。「あの名曲がそこまで軽くなってしまうのか」と、閉口する主人公の様子が描かれています。
ビートルズは存在しないが、楽曲自体の素晴らしは変わらない世界。ぜひ、映画本編をご覧になって、「if+過去形」の仮定法の世界をお楽しみください。
※参考図書 『映画で学ぶ生きた英語表現もしももしもの仮定法学習』