“Soccer”それとも”Football”?
第21回目のFIFAワールドカップ・ロシア大会が、2018年6月14日から始まっ ています。このFIFAワールドカップの第1回目が行われたのは、今から約90年前の1930年のこ と。開催国はウルグアイでした。
19世紀のはじめ、現在のウルグアイが位置する地域を巡って、ブラジルと アルゼンチンの間で戦争が勃発。最終的には英国の仲介によって、1828年に 現在の「ウルグアイ」(正式名称「ウルグアイ東方共和国」という独立国が誕 生しました。同国は1830年に憲法を制定し、初代大統領を選出しました。
つまり、ウルグアイ大会が開催された1930年は、同国が100周年を迎えた年 でもありました。建国以来、イタリアやスペインなどから移民を受け入れ、 約50年間にウルグアイの人口は3番に急増(1930年当時150万人)。首都モンテ ビデオの住人の過半数が「外国生まれ」だった同国を、「ウルグアイ人」と してまとめるために、サッカーW杯が利用されたとの見方もあるようです。
第1回大会の参加国は、ウルグアイ、ブラジル、アルゼンチン、チリ、パラ グアイ、ペルー、ボリビア、フランス、ユーゴスラビア、ベルギー、ルーマ ニア、メキシコ、そしてアメリカの13カ国。1930年7月30日に行われた決勝戦 は、ウルグアイ対アルゼンチンでした。
当時はテレビはもちろんラジオもなかったため、試合の経過は特派員が数 分おきに電報で報告。速報を受け取った新聞社は、今度はそれをバルコニー から読み上げ、集まった群集に伝えました。人々は「数分遅れの最新レポー ト」に一喜一憂したそうです。
結果は4対2でウルグアイが初代チャンピオンに。この日、ウルグアイの首 都モンテビデオでは夜を通して、優勝を祝う大騒ぎが続いたそうです。
他方対岸のブエノスアイレスでは、ウルグアイ領事館が数千人の群衆に襲 撃され、警官隊が発砲するなど、こちらも深夜まで騒ぎが続いたとのこと。 両国の対立は一時的に国交断絶にまでに激化したそうです。
![オックスフォード大学](https://etc-eikaiwa.com/wp-content/uploads/2018/06/OxfordBuilding-225x300.jpg)
オックスフォード大学
さて、第1回大会から遡ること約70年前の1863年、英国ではそれまでバラバ ラだったフットボールのルールを共通化するため協会(Association)を設立。 この協会の定めたルールに基づくフットボールを「Association Football」 と呼ぶようになりました。
そもそも「サッカー(Soccer)」という呼び名は、この「Association Football」を短縮したもの。もともとは、英国オックスフォード大学の学生 の間で使われたスラングだったそうです。
たとえば、1890年代の学生は、”lecture”(講義)のことを”leccer”、 “Rugby”(ラグビー)のことを”Rugger”と呼んでいました。
”Soccer”は、”Association”を当時の学生風に略した”assoc”に、”-er” を加え、さらに語頭の2文字”を省いてしまったようです。
この呼び名「Soccer」は英国ではすぐにすたれてしまいましたが、米国に 伝わりそこで定着しました。現在「Soccer」という呼び方が主流なのは、サッ カー以外の人気スポーツとして「アメリカンフットボール」がある米国や 「オージーフットボール」のあるオーストラリアなど。
他方、英国をはじめ世界的に主流なのは「Football」という呼び名だそう です。
◎サッカー 米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国、南アフリカ など
◎フットボール 英国、フランス、ドイツ、スペイン、ポルトガル、ブラジル、アルゼンチン など
では、これ以外の国はどちらを使っているのでしょうか?
こんな面白い世界地図がありました。「Soccer」もしくはその変化形を使 用している国は「青」で、「Football」もしくはその変化形を使用している 国は「赤」で表記しています。
地図をご覧いただければ一目瞭然、圧倒的に「赤」、つまり「Football」 が主流であることが分かります。
興味深いのは、お隣同士なのに英国は「Football」で、アイルランドは 「Soccer」。また、アフリカ大陸で「Soccer」を使っているのは南アフリカ だけで、それ以外は全て「Football」系。中国は「足玉」でこちらも 「Football」です。
![1872年、イングランドとスコットランドの間で行われた世界初の公式国際試合(当時の新聞の挿絵)](https://etc-eikaiwa.com/wp-content/uploads/2018/06/f00d9372b95f93c283521eba3b7630eacea99c0a-257x300.jpeg)
1872年、イングランドとスコットランドの間で行われた世界初の公式国際試合(当時の新聞の挿絵)
さらに目を引くのは「緑色」で表示されているイタリアと、東南アジアの いくつかの国。これらは「Soccer」でもなく「Football」でもなく、独自の 呼び方をしている国です。
イタリアは「Calcio(カルチョ)」。語源は、イタリア語の動詞の 「calciare」(蹴る)が名詞の形「calcio」になったものです。
インドネシアは「Bola Sepak」と言うそうで、これは元々は「Soccer Ball」 のことです。
さらに、ミャンマーでは「Ball-Pwe」と言うらしく、直訳すると「ボール のお祭り」となります。もし機会があれば、ミャンマーの方にこの語源につ いて、お話しをお聞きしてみたいです。
サッカー(Soccer)か? それともフットボール(Football)か? どちらを使う かは、話し相手の国籍によって、使い分けが必要かもしれません。
ぜひ、次回のレッスンで先生に確認をされてみてはいかがでしょうか。
(*)参考リンク
Online etymology dictionary
(*)参考図書 『ワールドカップの世界史』(千田善著)