『さむがりやのサンタ』でイギリス英語

 
  Blooming Christmas here again!
  やれやれ、またクリスマスか!

 『Father Christmas』は、英国人イラストレーター、レイモンド・ブリッグさん(Raymond Briggs)が色鉛筆で描いた絵本です。邦題は『さむがりやのサンタ』(すがはら ひろくに訳)。1973年に発表されて以来、50年近くたった今も子どもたちに読み継がれています。

 レイモンドさんが『Father Christmas』で描くサンタの姿は、世間一般に知られているサンタのイメージとは、ちょっと異なるようです。

 通説では、サンタは北極に住み、奥様のミセス・クロース、妖精のエルフ、8頭のトナカイらと共に暮らしている、とされています。

 でも、レイモンド版サンタは、北極ではなくロンドンのタウンハウスに住み、奥様はすでに他界されたのか壁に遺影が飾られ、犬と猫、そして2頭のトナカイと暮らしています。

 性格も、陽気と言うにはほど遠く、いつも不機嫌で気難しい。冬が大嫌いで、寒さに愚痴をこぼし、侵入しにくい煙突に文句をつけます。

 でも、皮肉屋だけど、やさしく人間味に溢れ、プレゼント配達の仕事に誇りを持ち、子ども達を心から愛していることもわかります。

 どこにでもいるような普通のお爺ちゃんのようなサンタに、イギリスの子供たちは親しみを覚え、心を鷲掴みにされてしまうそうです。

 絵本『Father Christmas』には、”blooming”という単語が15回も登場します。不機嫌なサンタの口癖です。

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 ”blooming”は「花の咲いた」という形容詞です。他方、イギリスのスラングでは「不満」や「嫌いな気持ち」を強調するために使われています。”bloody”というスラングの古い形とも言われています。

 ”blooming”は和訳しづらい言葉ですが、日本語版『さむがりやのサンタ』では、場面に合わせて様々な日本語に置き換えられています。

 例えば、サンタが目覚めると、窓の外は雪景色だったときの台詞です。

  Blooming snow!
  おやおや 雪かい

 ラジオの天気予報が、雪やみぞれや氷が吹きすさぶ、厳しい寒さになると伝えています。

  Blow the blooming snow!
  なんてこったい いやな雪だよ まったく!

 出発の準備です。そりにトナカイをつなぎ、プレゼントを積み込みます。

  Brr! Blooming cold!
  うーさむ

 猛吹雪の中を、トナカイとサンタは進んでゆきます。

  Blooming snow!
  ひでえ雪だ!

 プレゼントが入った袋を肩にかつぎ、サンタは暗い煙突の中に入っていきます。

  Blooming chimneys!
  煙突なんて なけりゃいいのに!

 煙突から侵入しようとしたサンタを、アンテナが邪魔します。 

  Blooming aerials!
  じゃまっけな アンテナだ

 やっとの思いで煙突を通り抜けたサンタがぼやきます。

  Blooming soot!
  すすだらけに なっちまった

 忍び足で寝室のこども達にプレゼントを届けようとするサンタの又の下を、飼い猫が走り抜けます。

  Blooming cats!
  どらねこっ!

 寒空の中、プレゼントを全て配り終えたサンタは、やっと自宅に帰ることができました。

  Brr! Blooming feet frozen!
  やれやれ あしがこごえちまった

 トナカイや犬や猫たちに食事を与えた後に、自分のクリスマス・ディナーの準備。熱いバスタブにつかり、湯上りにビールを一杯。一人でごちそうをたいらげ、デザートもいただき、食器を洗いもすませ、テレビを見ていると眠気が襲います。パジャマに着替え、ベッドに入ったサンタが、読者に向かってこう言います。

  Happy blooming christmas to you,too!
  ま、おまえさんもたのしいクリスマスをむかえるこったね

 一方、アメリカでは”blooming”を、上記のような罵倒語の意味合いで使うことはめったにないそうです。

 1991年に『Father Christmas』が映画化された際に、アメリカ版からはイギリス版の台詞の中にあった76個の”blooming”は全て削除されました。

 ”Happy blooming christmas to you,too!

 の部分は、

 ”Happy Merry Christmas to you,too!

に差し替えられました。

 サンタも新しい声優に変えられ、アメリカ人の感覚に合うように、不機嫌さを抑え、より陽気で上品になったそうです。

 絵本『Father Christmas』でサンタが最初に訪れるのは、レイモンドさんが戦時中に疎開していたベティおばさんの家。次に登場するのはサセックスにあるレイモンドさん自身の家。そして、彼が生まれ育ち、両親と共にくらしたウィンブルドン・パークにあるテラスハウス(集合住宅)も描かれています。

 また、本当はその姿を人に見られてはいけないサンタが唯一言葉を交わすのは、牛乳配達員であるレイモンドさんの父親アーネストさんです。

 レイモンドさんは『Father Christmas』が発表される2年前の1971年に両親を亡くし、73年には奥様を亡くしています。

 クリスマスイブの夜を一人静かに過ごすサンタの姿は、レイモンドさん自身を描いたのかもしれません。

 レイモンドさんの心の風景が投影された素敵な絵本を、手に取って見てはいかがでしょうか。

(*)参考図書
『Father Christmas』Raymond Briggs著

『さむがりやのサンタ』
レイモンド・ブリッグズ 著、すがはら ひろくに 訳

『Father Christmas Goes on Holiday』Raymond Briggs著
Raymond Briggs著

『サンタのなつやすみ』
レイモンド・ブリッグズ 著、さくま ゆみこ 訳

(*)参照リンク
RAYMOND BRIGGS Snowmen, Bogeymen & Milkmen

RAYMOND BRIGGS Snowmen, Bogeymen & Milkmen from Louise Lockwood on Vimeo.

「スノーマン」のレイモンド・ブリッグズさん死去 88歳

 
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