シャーロック・ホームズも驚く!? 通貨換算機!
Will you be so good as to accommodate me, and that by return of post, with ten pounds?
(私のために10ポンド郵送してくれないか?)
英国スコットランドを代表する詩人ロバート・バーンズが、従兄弟のジェームズに宛てた手紙の一文です。手紙には「1796年7月12日」と記されています。
O James! did you know the pride of my heart, you would feel doubly for me! Alas! I am not used to beg!
(おぉジェームズ!あなたが私の心の誇り知っていたら、二重に同情してくれるはずだ。なんて悲しいんだろう。この私が物乞いをするなんて)
英国ではシェークスピアと並び称されるバーンズですが、晩年はとても困窮していました。この手紙を出した10日後の7月21日に、彼は心疾患のため亡くなりました。37歳でした。
バーンズが必要とした「10ポンド」は、今の貨幣価値でどれくらいの金額なのでしょうか。
1270年から2017年までの英国通貨の価値を、現在(2017年)の貨幣価値に置き換えてくれる便利なサイトがありました。
※Currency converter: 1270?2017
このサイトの通貨換算機(currency converter)は、王室や財務省などの歴史的な記録をもとに作られたそうです。興味深いのは単なる貨幣価値だけでなく、当日の人びとの暮らしはぶりはどのようなものだったか、交通手段は何が使われていたのか、といった詳しい解説も読むことができます。
また「当時だったらこの金額で馬が何頭買えた」というようなおもしろい指標に加えて、「熟練した職人の何日分の賃金か」という具体的な数字も示されています。
熟練した職人ですから、当時の労働者階級の中でも比較的良い暮らしぶりができた人たちです。そんな一般生活者たちの何日分の賃金なのか、という物差しになります。この物差しを使って、当時の人びとの人生に、自らを重ね合わせてみることができるかもしれません。
早速バーンズが必要とした10ポンドを、このサイトを使って計算してみましょう。年代は10年ごとに設定することができるので、1790年に設定。そして、10ポンドを入力した結果がこちらです。
£767.61
In 1790, you could buy one of the following with £10:
Horses: 0
Cows: 2
Wool: 11 stones
Wheat: 1 quarters
Wages: 66 days (skilled tradesman)
767.61ポンド
1790年、10ポンドで下記の内のどれか一つを買うことができました
馬: 0頭
牛: 2頭
ウール: 11ストーン(約70キログラム)
小麦粉: 1クオーター(約11キログラム)
賃金: 66日分(熟練工)
2017年の平均為替レートを1ポンド=145円だとすると、767.61ポンドは111,303円。でも、それよりもわかりやすいのは、熟練工の賃金の66日分であるということ。つまり当時の約2か月分の給与をロバート・バーンズは求めていたことになります。
10ポンドは、目の前の苦境をなんとか乗り切るための、当面の資金だったのかもしれません。
時代は変わって19世紀後半。アーサー・コナン・ドイル(Arthur Conan Doyle)の人気推理小説、シャーロック・ホームズ・シリーズの中の「花婿失踪事件」(A Case of Identity)には次のようなお金の話しが登場します。
” I find that I can do pretty well with what I earn at typewriting. It brings me two pence a sheet, and I can often do from fifteen to twenty sheets in a-day.”
「わたしはタイピストの収入だけで十分やってゆけます。1枚2ペンスで、1日に15枚から20枚も打てることが多いんですの」
この小説「花婿失踪事件」が発表されたのは1891年。タイピストは当時女性の花形職業だったそうです。1ペンスは0.01ポンド。1日に20枚のタイプ打って、1ヶ月で25日働いたとしたら、20枚x25日x2ペンス=10ポンド。月に10ポンドの収入となります。
これを同じように先ほどの通貨換算機で計算してみると、1890年代の10ポンドは驚くなかれ「 Wages: 30 days (skilled tradesman):熟練工30日分の賃金」という結果に。シャーロック・ホームズの小説とぴたりと同じ、約1か月分の賃金となりました。現在の貨幣価値でいうと、820.49ポンド(約12万円)になるそうです。
そして、20世紀前半、作家アガサ・クリスティ(Agatha Christie)の登場です。彼女が1926年に発表した長編推理小説『アクロイド殺し』(The Murder of Roger Ackroyd)に、次のような場面がありました。
化学薬品工場の成功でひと財産を築いたロジャー・アクロイドが何者かに殺害。姪のフローラは遺産として2万ポンドを得ることがわかりました。
“Uncle Roger has left me twenty thousand pounds. Think of it -twenty thousand beautiful pounds.”
「ロジャー伯父様は、私に2万ポンド残してくださったんです。考えてみてください――2万ポンドもですよ」
“Mean much to me? Why, it’s everything. Freedom?life?no more scheming and scraping and lying –
「重要なことかですって? ええ、これですべてが変わると言ってもいいぐらいよ。自由――人生――もう頭を絞って、お金を節約したり、嘘をついたりしなくても――」
1920年代の2万ポンドは、現在の貨幣価値で約58万ポンド。熟練工60,606日分、年数に置き換えると166年分の賃金にあたります。暮らしぶりにもよりますが、フローラはもう一生働く必要はないと考えたでしょう。そして、お金、そして嘘から開放された自由な人生が送れると。その一方で、お金で得られないものを失っていたことに、彼女はこの後気づきます。
通貨の価値は時代を経て大きく変わっているのは間違いありません。でも、お金との人びとの距離感、係わり合い方、翻弄のされ具合は、数百年という時を経ても、全く変わっていないようにも思えます。
読書の秋。文学作品に登場する登場人物の暮らしぶりや心情を、この通貨換算機を使って探ってみてはいかがでしょうか。
(*)関連リンク
ロバート・バーンズの作品を、チャールズ先生(横浜)が解説、そして朗読もあります。
リンクは下記のページの下にあります。ぜひ、ご視聴ください!
※スコットランド英語とスコッツ語とロバート・バーンズ~『Robert Burns ? The people’s poet』でじっくりとマンツーマン英会話