スコッツ語と日本語とロバート・バーンズ – 『Completely Burns』でじっくりとマンツーマン英会話
ロバート・バーンズ生誕250周年を祝い制作された企画です。彼の300以上にも及ぶ作品を、スコットランド出身の俳優達が朗読したものをポッドキャスティングとして配信しています。
詩は朗読されて初めてその作品に命が吹き込まれような気がします。歌は歌われことで歌になるように。詩を声に出して音にしてみることは、音楽プレーヤーの再生ボタンを押すのに似ているのではないでしょうか。言葉が形が帯びて、生まれ出てくるような、そんな感覚に包まれます。
BBC – Podcasts – Completely Burns
ロバート・バーンズは、スコットランド南西部、サウス・エアシャイアの生まれ。スコッツ語のエアシャイア方言を使った詩作を行ないました。スコッツ語が他の英語方言とは一線を画している理由の一つは、スコッツ語が近代文学の一部として育まれ、今日まで続いていることがあげられます。
しかし、スコットランド・ゲール語と同じようにスコッツ語も、その言葉を話す人の数は減少する一方だそうです。スコッツ語を文学作品として遺してくれたバーンズの詩は、スコットランド人にとってなによりも愛すべき存在なのでしょう。国家独立を失う共に、言葉も失われようとしているスコットランド人にとって、言葉は国家と同じ意味を持っているのだと思います。言葉を大切にすることは、自分自身を大切にすることに直接結びついているに違いありません。
日本人は言葉を失った歴史はありません。でも、日本語も日々移り変わっています。変わるということは、同時に何かを失っていることでもあります。日本人も「日本のロバート・バーンズ」的な存在が必要なのかもしれません。
彼の詩の日本語訳が知りたいと思い、中村為治さんが訳した『バーンズ詩集』(岩波文庫)を手に取りました。なんと第一刷が出版されたのは昭和3年(1928年)。序章には中村さんのこんな言葉がありました。
「我はバーンズを愛す。
彼は偉大なる人物にてはあらざるべし。
されど決して下劣なる男にてもあらず。
かれは熱情の人なり。
彼は正直にして素直なり。
彼は貧の苦しさを知り、生の楽しさを味へり。
我はバーンズを愛す。
その死ぬるまで変わらざるべし。
そは唯彼を愛するなり。
其処に何等の理屈あるなし。
彼我に封ひて心を開く。
如何で我が心彼に封ひて開けざるを得んや。
此処に彼の詩を評し出したり。
人よ読みて彼の友となり給へ。
而して我と共に我がロバートと叫び給へ。
昭和三年五月二十五日 西荻窪にて 中村為治」
今では使われない日本語の形です。でも、意味はちゃんと分かります。それどころが、このほうが中村さんのバーンズを愛する熱情がより伝わってくるような気がします。中村さんは川端康成さんと同級とのことです。川端さんの作品を読めば、この時代の人々が上記のような日本語で文章を書いていたわけではないことがわかります。
ただ、この中村さんによる序章は、実は一遍の詩になっているようでもあります。ロバート・バーンズへのオマージュなのかもしれません。声に出して読んでみると、日本語の響きに込められた興奮を感じずにはいられません。
※関連リンク
▽ETCマンツーマン英会話のチャールズ先生インタビュー
▽スコットランド英語とスコッツ語とロバート・バーンズ
~『Robert Burns – The people’s poet』でじっくりとマンツーマン英会話
▽English Poetry
▽東京商科大学教授中村為治の生涯とロバート・バーンズ 照山顕人
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