ディラン・トマスに出会う映画 Twin Town ツインタウン
一般の外国人の方に、「日本について知っていることを言ってください」と聞いたら「フジヤマ、ゲイシャ、サケ」と言われて、少々がっかりすることがあります。どれも間違ってはいるわけではないのですが、どこかおちょくられているような気持ちにもなります。
しかし、自分も似たようなことをしていることに気がつきました。
「スコットランドと言えば?」
「スコッチウィスキー、タータンチェック、バグパイプ」
「では、ウエールズは?」
「ラグビーと、、、映画『ウェールズの山』?」
これでは、「フジヤマ、ゲイシャ、サケ」と同じレベル。言われたスコットランド人、ウェールズ人も、がっかりしたに違いありません。
映画『ツインタウン』のトレイラーは、まさにそんな内容になっています。ただただ、ウェールズ名物やウェールズ出身の有名人の名前を叫んでいるのです。
オリジナル予告編
“Rugby. Tom Jones. Male Voice Choirs. Shirley Bassey.
Llanfairpwllgwyngyllgogerychwyrndrobwyllllantisiliogogogch.
Snowdonia. Prince of Wales. (He’s not fuckin’ Welsh)
Anthony Hopkins. Daffodils. Sheep. Sheep shaggers. Coal. Slate Quarries.
The Blaenau Ffestiniog Dinkey-Doo Miniature Railway. (Ah Christ.)
Now, if that’s your idea of thousands of years of Welsh Culture, I am you can’t blame us for trying to liven the place up a little can you? I am a big bad born bargain baby basher”
日本版予告編
(ラグビー、トムジョーンズ、男性合唱団、シャーリー・バッシー
サンヴァイル・プスグウィンギス・ゴゲリフウィルンドロブス・サンティシリオゴゴゴフ村(*)
スノードニア、プリンス・オブ・ウェールズ(奴はウェールズ人じゃねえ)
アンソニー・ホプキンス、ラッパズイセン、羊、田舎者、石炭、スレート採石場、
ブレイナイ・フェスティニョグ・ミニ鉄道、(まったく)
ウェールズがそんな所なら、俺は超熱狂ヤク中の極悪ガキだぜ。)
(*) 世界で最も長い名前の村
さて、ディラントーマスは、子ども時代のクリスマスの思い出を語る際に、生まれ故郷のウェールズ、スウォンジのことをこう語りました。
I was born in a large Welsh industrial town at the beginning of the Great War: an ugly, lovely town (or so it was, and is, to me.
(私は第一次世界大戦の始まった頃、ウェールズの大きな町に生まれました。醜くもいとおしい街です。それは私にとって今も昔も変わることがありません。)
uglyとlovely。相対するような言葉で表現することによって、その町のイメージが深く広がってゆきます。映画『Twin Town』では、このディラン・トーマスの言葉について触れているシーンがあります。
What the fuck does that mean?
何の意味だ?
Greyo:
What?
何が?
Terry:
That. Ambition is fucking critical.
あれだよ。 “野心がクソ危ない”
Greyo:
It says, “Ambition is Critical.” There’s no “fucking” in it. It’s a play on words.
“野心は危機にあり”だ。”クソ”は入ってない。詩だよ
Terry:
A What?
何だって?
Greyo:
Dylan Thomas.
ディラン・トーマスの
Terry:
Who?
誰だ?
Greyo:
The poet Dylan Thomas. He said “Swansea is the graveyard of ambition.”And he was right.
詩人のディラン・トーマス。”スウォンジーは野心の墓場と”。名言だ
Terry:
Did he wright that?
彼が書いた?
Greyo:
No, the Council wrote that.
役所だよ
Or they probably employed another poet and he or she came up with that.
別の詩人に言葉を練り直させたのさ
“Ambition is Critical.”
“野心は危機にあり”と
Terry:
Three words. They got a poet to do three fucking words?
3語だぜ。わざわざ詩人にやらせた?
Greyo:
You can have as many words as you like in a poem. It doesn’t matter.
語数は問題じゃない。
Terry:
Is it supposed to be funny?
笑わすためか?
Greyo:
No, it’s supposed to be clever.
彼は名言を残した
Dylan Thomas also called Swansea… ”An ugly lovely town.”
スウォンジーを ”醜くも いとしい街”と
Terry:
I’d call it… A pretty shitty city.
俺なら‐”チンケでクソな街”だ
Greyo:
Dylan Thomas didn’t do as much fucking cocaine as you, did he?
ディラン・トーマスはお前みたいにラリッてなかっただろう。
Terry:
At least mine fucking rhymes.
少なくとも俺のは韻を踏んでるぜ
Three words as well: “Pretty shitty city.”
同じく3語だし。”チンケで クソな 街”
I fucking like that! Pretty shitty city.
気に入った。”チンケで クソな 街”
(日本語字幕はDVD『ツイン・タウン』から一部引用、修正)
“Ambition is Critical”は、ディラン・トーマスの言葉とよく誤解されるそうです。実際にこの詩を作ったのは、ディラン・トーマスほど有名ではない、おそらくは無名に近い詩人、デイビッド・ヒューズDavid Hughesという方。ウェールズ国民党Plaid Cymruが、ディラン・トマスの言葉と思い違いをし、マニュフェストに明記してしまったことがあるとのこと。
なんともほのぼのとした、しかし笑うに笑えない話し。党首は間違いなく、映画『ツイン・タウン』を見ていなかったのでしょうね。
▽ウェールズ国民党がディラン・トマスの言葉と誤って引用 (BBC News, 12 April 2011)
Plaid Cymru wrongly attributes Dylan Thomas quote
(*)関連リンク
Dylan Thomas: Memories of Christmas