映画『Kes』(ケス)でヨークシャー英語
「英語は一つではない」ことを体感したいならこの映画と、チャールズ先生(横浜・大坂上)が薦めてくれた作品です。先生ご自身も字幕(英語)に頼らないと分からない部分があるとのこと。
英国映画協会の「14歳までに見ておくべき映画ベスト50」にも選ばれているこの映画は、60年代後半の炭鉱町ヨークシャーで生きる15歳の少年ビリー・キャスパーが主人公。当時のヨークシャーの炭鉱労働者の賃金は、先進国の中でも最も低い賃金だったとも言われています。
撮影が行われたのはサウス・ヨークシャーのバーンズリー(Barnsley)。役者はすべて本物のヨークシャー訛りを話すか、もしくは使っていた、よく知っている者たちで構成、エキストラもバーンズリーかその周辺から雇われました。本映画のDVD版ではいくつかのシーンでいくつかのヨークシャー方言が吹き返られたそうです。
ヨークシャー訛りにはどのような特徴があるそうです。
-標準イギリス英語では bath や fast の母音は長母音 [ɑ:]であるのに対して、短い母音の [æ] になる
-car は[kæ]となる
-[ʌ] という母音は存在しない。bus は [bus] (ブス)となり、funny は [funi] (フニー)となる
-courage が (コリッジ)となる。標準発音ではアクセントのある第1音節は [ʌ] という母音だが、ヨークシャ訛りでは [o] になる。country や money も同じ
-trumpet の強勢母音が /ʌ/ ではなく [u] になる
-London の強勢音節も /ʌ/ ではなく [o] に置き換わっている
-rain や stay の母音は [e:] となる
-go や home の母音は [o:] となる
-my は [mi] と発音される
【子音】
-語頭の /h/ が脱落するのも特徴。よって、heart と art は同音異義語になる
-hundred, holiday, Albert Hall などの語頭の /h/ が省略されている。bloody (h)ell も”bloddy ‘el”(ブロディ・エル)と言っている
【語彙】
-nowt はnothingの意味
では、実際に映画のシーンで見てみましょう。ビリーはアルバイトの新聞配達に出かける場面。店主との会話です。
I thought you weren’t coming.
アイソート ユワンッ カミン
休むかと思ったよ
Why? I’m not late, am I?
ワー アムナットレイト トンマァー
時間通りだよ
Very near.
ヴェリィー ニア
ぎりぎりな
I nearly was though.
アーニアワズソー
間に合って良かった
What do you mean?
ワッドユミーン
どうした?
Our Jud, he’s taken the bike.
アージューッド ヒテインバイク
ジュードだ。自転車を使われた
What you gonna do then?
ワッ ユゴナドゥーゼン
どうやって配る?
Walk it.
ウォーキッ
歩いて
Walk it? How long do you think that’s gonna take?
ウォーキッ?ハウロングユシンクザッツゴナテイク
何?時間がかかる
It’ll not take me long.
ブラットテーキミローン
大丈夫
Hey.There’s a waiting list a mile long for that job of yours.
ヘイ ゼアツ ウェインティングリスツマイルロングフォーザッツ ジョビュオアーズ
新聞配達のなり手は大勢いるぞ
Good lads, too, most of’em. From up Firs Hill, round there.
グッドラーズトゥーモーストブゼム フロムアップファーゼル ランドゼー
いい子たちばかりな
I haven’t let you down, have I ?
アイエベンレットゥユーダン、アブアーィ
心配しないで
(中略)
You know what they said when I took you on?
雇う時 言われたよ
What?
ワォー
何?
They said, “You’ll have to keep your eyes open now, you know.
They’re all alike in that state up there.
He’ll take your breath if you’re not careful.”
あの付近の子は油断ならないから注意しろって
I haven’t taken nowt of yours yet, have I?
アイブンタエキンナットヨージェット テバァー
僕は大丈夫でしょ
Well, I haven’t given you a chance, that’t why.
目を光らせているから
You don’t have to.
ユードンハフトゥ
そんな必要はないよ
I-I haven’t been nicking for age now.
アー アハヴェント二キングフォエイジナー
僕はズルなんかしてないよ
Well, come on then. Don’t stand about all day.
いいから早く行け
I’m goin’.
アイムゴーイン
行くよ
気がついたのは、whatがwo(ワォー)、whyがwa(ワー)、Iがah(アー)、nowがnah(ナー)のように母音の変化して聞こえたこと。また、nothingの代わりにnowtが使われていました。
ただ、それ以上に分かりづらいのはLinking。連なる単語の音と音が繋がった後に、別の音に変化している部分です。つまり、単語自体の発音をいくら単体で覚えていても、それが会話の中で他の単語と結合して別の変わってしまうことを知らなければ、理解できないことになります。これはどうやったら克服できるのでしょうか。次のBBCサイトが参考になりそうです。a cup of teeが連結して、(ア カッパ ティー)になる仕組みなどを説明しています。
Pronunciation tips / Connected Speech
※参考サイト
イギリス「北部の訛り」を知るにはこの映画
※関連リンク
Kes Billy Casper