ハリケーンを人名で呼ぶのはなぜ?
メキシコ湾で発生した大型ハリケーン「マイケル」は、勢力が5段階中2 番目に強い「カテゴリー4」を保ったまま、現地時間10月10日午後、米フロ リダ州に上陸。同州や周囲のアラバマ州、ジョージア州、サウスカロライナ 州など甚大な被害を及ぼしたのこと。被害にあわれた方々に心よりお見舞い 申しあげます。
そもそも、米国でハリケーンを人名で呼ぶのはなぜなのでしょうか?。
米国立ハリケーンセンター(NHC:National Hurricane Center)によれば、 「緯度経度を使って呼び名を定めていたかつての複雑な命名方法よりも、短 くて特色のある人名を使う方が、迅速にコミュニケーションでき間違いも防 げるから」とのこと。
現在、NHCは大西洋向けには6組のハリケーン名リストを準備。1年に1組ず つ、6年周期で利用。AからWまで21個の英語アルファベット順の名前(Q、U、 X、Y、Zはない)が終わったら、次は「Alpha(アルファ)」から「Omega(オ メガ)」までの24個のギリシャ文字のアルファベットを呼び名として使用す るそうです。
今年2018年は、「Alberto」「Beryl」「Chris」「Debby」「Ernesto」 「Florence」「Gordon」「Helene」「Isaac」「Joyce」「Kirk」そして 「Leslie」の名前が使用され、現在が前述のとおり13番目の「Michael」が登 場となったようです。
この制度が始まったのは1953年。当初はすべて女性の名前でした。1979年 から、ハリケーンの名前を男女均等に割り振り、「Bob」、「David」などの 男性の名前も使用されるようになりました。
他方、とくに被害が甚大なハリケーンとなった場合には、歴史に残すため に、そのハリケーン名はリストから除外されるそうです。
(*)Tropical Cyclone Names https://www.nhc.noaa.gov/aboutnames.shtml
さて、ハリケーンが人名で呼ばれるようになったきっかけは、アメリカの 歴史家ジョージ・R・スチュワート(George R. Stewart)による小説『Storm』 (1941年)だと言われています。
同小説の主人公は、サンフランシスコの気象センターに勤める若手気象学 者。彼は追跡していた暴風雨に、「Maria」(マライア)等女性の名前をつけて いきます。理由は、暴風雨それぞれがユニークな性格を持ってるからとのこ と。
たとえば、外見は強そうに見えても虚勢をはっているだけだったり、こっ そり、のろのろと現れたり、数日間にわたって不機嫌だったり、背後からい きなり刺してきたり、夜が明ける前にいなくなってしまったり、あなたの予 想通りの行動をとったりと、暴風雨はまるで人間のようだと。
小説の発表後の1944年12月18日、米軍の気象学者はフィリピン海上の台風 に「Cobra」(コブラ)と名づけます。また、1945年10月9日には沖縄を襲った 台風に「Louise」と名づけます。「Louise」は米海軍の船を破壊、沈没させ、 大戦後の米軍に帰国を遅らせました。
「hurricanes」(ハリケーン)の語源は、アメリカ先住民の「Hurakons」と いう言葉。“a great spirit who commanded the east wind.” (東の風を操っ た偉大なる魂)、という意味だそうです。
人間の力など到底及ばない破壊的な強風を、日本で暮らす人々は、しばし ば「風の神」などのように例えることがあります。そのような感覚は、ハリ ケーンを人名で呼ぶよりも、このアメリカ先住民の精神のほうが、近しいの かもしれません。
(*)参考リンク
Tropical Cyclone Naming History and Retired Names
WHEN DID THE PRACTICE OF NAMING HURRICANES BEGIN, AND WHERE...