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He is a very pleasant if talkative boy

(彼はおしゃべり好きだが、大変陽気な(好感の持てる)少年だ)

これは「《譲歩》のif」の例文です。

《A if B》という構造になっていて、”even if”の”even”が略された形です。

「Bではあるかもしれないが、Aだ」「たとえBであっても、Aだ」という意味になります。

英文法で使われる《譲歩》という言葉が、一般的に使われる「譲歩」とは意味が異なり、わかりづらいかもしれません。

これは意見が対立している相手の言い分も聞き入れた(譲歩した)上で、それでも自分の意見を強く言う、という状況をイメージしてみてください。

上の例文では、少年が”talkative“(おしゃべり)だという指摘を聞き入れた上で、でも、そのことよりも、”pleasant”(好感が持てる)ということをより強く伝えようとしている文になります。

「《譲歩》のif」を使った例文をもう一つ。

こちらはif節の主語とbe動詞が省略されていないので、よりわかりやすいかもしれません。

The house is comfortable if it is a little small.
(その家は少し狭いかもしれないが、居心地がいい)『徹底例解ロイヤル英文法』 改訂新版より

この例文でも、その家が少し狭い(a little small)ことよりも、居心地が良い(comfortable)をより重要な主張になっています。

オバマ前米大統領は2020年11月17日に回想録『A Promised Land』第1巻を発表しました。

同書の中で、鳩山由紀夫元首相について次のように記述しています。

A pleasant if awkward fellow

時事通信社はこの部分を「感じは良いが厄介な同僚だった」と訳して報じたところ、複数の翻訳の専門家らが、これは明らかに誤訳だと指摘して、SNS上で話題になっています。

”A pleasant if awkward fellow”の訳に対するTwitter上での反響

「誤訳だ」とする主な理由の一つが、「《譲歩》のif」の解釈の仕方です。

この場合、上段で説明した通り「”awkward”であるかもしれないが“pleasant”だ」と訳すべきところを、「“pleasant”だが”awkward”だ」と、あべこべになっています。

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これを”He is a very pleasant if talkative boy”の例文に当てはめると、「彼は好感は持てるがおしゃべりだ」となってしまいます。

「好感が持てる少年」であることに重点を置こうとしている文が、「少年はおしゃべりだ」と批判しているようなニュアンスに変わってしまいます。

もう一つは”awkward”を「厄介な」と訳したこと。

Awkwardは多数の意味を持つ単語です。

このような多義語が人物描写に使われた場合には、書き手(語り手)がその人物とどのようなやり取りを経て、どんな印象を抱いたのかを具体的に把握しないと、翻訳は難しいでしょう。

”awkward”のもともとの意味は「ぎこちない」。

awk + wardという構造になっていて、前半の”awk”は「おかしな、変な、本来とは逆の」、後半の”ward”は、foward, inword, towardなどにも使われていて「方向」を表します。

「本来とは逆の変わった方向に進む」というような感じでしょうか。

雰囲気について”awkward”を使うときは「気まずい」。

人の行動について使うときは「どんくさい」。

人の性格について使うときは「社交下手」の意味にもなるそうです。

この「気まずさ」(awkwardness)に関して、ユーチューバーのMichael Stevensさんが、その具体的な事例を動画で紹介しています。

Offering a handshake when the other person offers a fist bump.
(握手しようと手を差し出したが、相手はグータッチをしようとしていた)

Forgetting someone’s name.
相手の名前をどうしても思い出せない)

Getting caught staring at a stranger.
(知らない人をじっと見ているのが、相手に気付かれしまう)

Overhearing a couple breaking up.
(カップルの別れ話を漏れ聞いてしまう)

Noticing food in someone’s teeth but not telling them
(誰かの歯に食べ物がついているのに気付いたが、それを言わなかった)

Smelling a fart in an elevator that wasn’t yours but, well, now youcan’t even react to it or mention that you’ve noticed it or pretend to even know what a fart is.

(エレベーターの中で誰かのおならの匂いを嗅いでしまったが、今は反応もできないし、気づいたことも言えないし、おならが何なのか知っているふりもできない)

The Science of Awkwardness

社会科学者のTy Tashiroさんは、自分は「社会的に不器用」(awkward)だったとして、自身の中学生時代のエピソードを講演動画で紹介しています。

Tashiroさんは当時読んでいた小説や年上の友人たちから影響を受けて、中学入学時にメガネや鞄、服装など自分の年代には不似合いな、おじさんぽいものを選んでしまいました。

おかげで学校で浮いた存在になってしまったとそうです。

一般的に受け入れられる標準的なふるまいや、人々が期待している社会の型を捉えるのにとても苦労したそうです。

このような経験から、自分は”awkward”(社会性を欠いていて不器用)だったとと振り返っています。

他方、このような人とは異なるユニークな行動、一般の人々がほとんど注目しない事柄に熱い視線を注ぐ行為の大切さを、Tashiroさんは強調しています。

Tashiroさんが7,8歳のころ、お父さんは地元の高校のバスケットボールチームの監督をしていました。

多くの人々が視線が、コーチや選手、そしてチアリーダーなどに注がれるのに大して、Tashiroさんが興味を示したのは、スコアキーパーの仕事だったそうです。

バスケットボールのような慌ただしい試合を数値化して、その数値をもとにコーチが指示を出し、選手たちがより効率的に協力し合う。

そのアイデアに猛烈に魅了されたそうです。

そしてその数値への興味は、たくさんの数値データを取り扱う現在の社会科学者の研究に活かされたそうです。

不器用(awkward)であろうとなかろうと、私たちのその熱狂さが人生の可能性を広げて行くとTashiroさんは訴えています。

Why We’re Socially Awkward and Why That’s Awesome

さて、下記がオバマ氏の回想録で、鳩山氏が登場する部分です。

SNSに掲載された日本語訳も参考にして、訳してみました。

IT HAD BEEN more than twenty years since I’d traveled to Asia.

Ourseven-day tour started in Tokyo, where I delivered a speech on the future of the U.S.-Japan alliance and met with Prime Minister Yukio Hatoyama to discuss the economic crisis, North Korea, and the proposed relocation of the U.S. Marine base in Okinawa.

A pleasant if awkward fellow, Hatoyama was Japan’s fourth prime minister in less than three years and the second since I’d taken office a symptom of the sclerotic, aimless politics that had plagued Japan for much of the decade. He’d be gone seven months later.

『A Promised Land』Google Books より

(私のアジアを訪問してからすでに20年以上が経っていた。

我々の7日間のツアーは東京から始まった。

東京では日米同盟の将来についてスピーチを行い、鳩山由紀夫首相と会談し、経済危機、北朝鮮、沖縄の米海兵隊基地移設問題について協議した。

鳩山氏は不器用だが気さくな人物で、10年もの間日本を苦しめた硬直化した目的のない政治の病理により3年足らずで4人目の首相。

私の就任後では2人目の首相となっていたが、7カ月後には辞任した)

来年早々、同書の日本語版が発売されるとのこと。

発売の折には、翻訳の答え合わせもしてみたいと思います。

全世界 25 言語で同時発売だそうです。

バラク・オバマ前大統領の回顧録第 1 巻『A Promised Land』日本語版が、集英社から発売決定――原書の書影も公開

◎参照
 《形容詞A if 形容詞B》の構造, awkwardの語義 (バラク・オバマの回想録と時事通信の誤訳)

 
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