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“Black Lives Matter”は
日本語で?
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“Black Lives Matter”
 (ブラック・ライヴズ・マター)

“Black Lives Matter”は、黒人に対する暴力や「制度的な人種差別(systemic racism)」の撤廃を訴える運動です。

2013年2月に米国フロリダ州で、黒人の高校生トレイボン・マーティン (Trayvon Martin)さんが丸腰だったにもかかわらず、ヒスパニック系の混血であるジョージ・ジマーマン(George Zimmerman)自警団員が射殺してた事件が発端だといわれています。

同自警団員は陪審評決でフロリダ州特有の「正当防衛法」により無罪となりました。

この事件がきっかけとなり、アフリカ系アメリカ人の方々が中心となり抗議運動が開始され、#BlackLivesMatterというハッシュタグが、SNS上で拡散されるようになったそうです。

2020年5月25日、米国ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイド(George Floyd)さんが、白人のデレク・ショーヴィン(Derek Chauvin)警察官が死に至らしめられた事件が発生。

これに抗議する形で、デモ行進が米国のみならず世界各国に拡大。スローガン“Black Lives Matter”が掲げられ、東京渋谷でもデモが行われました。

オンラインメディアのハフポスト日本語版は、“Black Lives Matter”を「黒人の命も大切だ」と翻訳して報道。

しかし、この日本語訳は不適切だとして、SNS上などで様々な異論・批判の声が上がりました。

例えば、「英語では『も』とは言っていません」「白人やその他の人種の命は大切だけど、黒人の命も大事だという表現になってしまいます」「今もアメリカに残る酷い黒人差別、特に若い黒人男性が命の危険を感じている事実を矮小化してしまいます」などといった意見です。

これを受けて、ハフポストは「黒人の命を守れ」、「黒人の命も大切だ、軽視するな」、「黒人の命は大切(です / だ)」等の修正・追補を行ったそうです。

他方、音楽評論家のピーター・バラカンさんは、自身のラジオ番組「バラカン・ビート」(6月14日の放送)の中で、次のようなリスナーの投稿を紹介したそうです。

“Black Lives Matter”=「黒人の命は大切」という和訳は、どうもしっくりこない。ピーターさんならどう訳しますか?

まずピーターさんが説明したのは“matter“という動詞でした。

“matter“は一般的にIt doesn’t matter(たいしたことじゃない)のように否定形として使われることが多いのだそうです。

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辞書で調べてみると、動詞の“matter“は「問題となる」「重要である」などの意味ですが、例文には、否定文や否定的な答えを求めるニュアンスの疑問文での用途が目につきます。

・None of that matters.
(そんなことどうでもいいよ。)

・Does it matter? :
(それが問題になるの?/どうでもいいんじゃない?/重要なことかい?)

・It doesn’t matter how late it is.
(いくら遅くてもかまいません。)

・It doesn’t matter. :
(どうでもいいよ。/気にしないでください。/構いません。◆【用法】謝られたときの返事としても使える。)

※matter (「英辞郎 on the WEB」より)

“Black Lives Matter”で着目すべきなのは、”Matter”が肯定文の中で使われているところ。

通常否定文で使われる動詞が、肯定文で使われることで、特異な響きとなり、強調のニュアンスが生まれるのかもしれません。

日本語で表すとすれば、「たいしたこと『なくない』」とか「たいしたこと『ある』」のような語感でしょうか。

ピーターさんは、「黒人の命は大切」という訳は間違っていないものの、確かにうまく訳すのは難しいと指摘。

その上で、次のように和訳しました。

“Black Lives Matter”=「黒人の命を軽く見るな」

他方、”Lives”の意味は「命」だけではない、という指摘もあります。

アメリカ文化学者である矢口祐人東京大学教授は、「今回の運動はジョージ・フロイド氏の殺害契機となったわけだから、Livesを『命』と訳すのは間違いではない」とした上で、”Black Lives Matter”はアメリカの「制度的人種差別」も批判している、と解説しています。

「制度的人種差別」については、次の動画でわかりやすく解説されています。

英語ですが日本語の字幕を表示することができます。

ぜひ一度ご視聴ください。

下記に一部を抜き出してご紹介します。

※【動画】Systemic Racism Explained
(制度的人種差別のしくみ(アメリカの黒人差別はこうして作られた))
https://youtu.be/YrHIQIO_bdQ

===

A big part of systemic racism is implicit bias.

(構造的人種差別の大きな要因は 潜在的なバイアスです。)

“BLACK PEOPLE ARE LAZY” ”WOMEN ARE EMOTIONAL” “ASIANS ARE GOOD
AT MATH” “WHITE PEOPLE CAN’T DANCE” “HISPANICS LOVE TACOS

”(黒人は怠け者) (女性は感情的) (アジア人は数学が得意) (白人はダンスが下手) (ヒスパニックはタコスが好き)

These are prejudices in society that people are not aware that they have.

(これらは、人々が気付かずに持っている社会に存在する先入観です。)

(中略)

Against all odds, Jamaal manages to be the only student from his high school to get accepted into a great university.

(例えば、ジャマル(黒人)があらゆる困難を乗り越えて、彼の高校で唯一、有名大学に 受かったとしましょう。)

The same one that Kevin and his high school friends are attending.

(ケビン(白人)と彼の高校の友人が通う大学です。)

But after Kevin and Jamaal both graduate, Jamaal notices that his resume isn’t drawing as much interest as Kevin’s, even though they graduated from the same program with the exact same GPA*.

(しかし、ケビンとジャマルが卒業した後ジャマルは、同じ学部を同じ成績で 卒業したのにも関わらず自分の履歴書がケビンの履歴書に比べ 受けがよくないことに気づきました。)

Unfortunately for Jamaal, studies show that resumes with “white” sounding names get twice as many callbacks as identical resumes with “black” sounding names.

(ジャマルには残念な話ですが、調査によると同じ内容でも、白人っぽい名前の履歴書は黒人っぽい名前の履歴書よりも 2倍問い合わせがあることがわかっています。)

Implicit bias is one of the reasons why the black unemployment rate is twice the rate of white unemployment, even among college graduates, today.

(潜在的なバイアスは、黒人失業率が白人の失業率の 2倍である理由の1つです。

今の新卒でもそれは変わりません。)

You can see evidence of systemic racism in every area of life.

(生活のあらゆる場面で制度的人種差別の存在を感じることができます。)

The disparities in family wealth, incarceration rates, political representation, and education, are all examples of systemic racism.

(家庭の貧富の差、投獄率、政治的代表、そして教育の制限は、全て「構造的人種差別」の例です。)

===

 ジョージ・フロイドさん殺害事件は、ひとりの白人警官の「個人的な偏見」から生まれたものに帰すべきではない。

「制度的人種差別」に起因する「社会全体の問題」だと、”Black Lives Matter”は批判していると、矢口教授は解説しています。

 その上で矢口教授は、Livesには「命」だけではなく、黒人の「生活」というニュアンスがあるとも考えるべきだ、との見方を示しています。

 そもそもスローガン(slogan)とは、主張や理念を、簡潔で覚えやすい語句で言い表したものです。

 “Black Lives Matter”を和訳するには、この短い言葉の背景にある歴史や事件、そしてそれを踏まえた主張や訴えなどを、まずは十分に噛みしめ、理解しようとする試みが必要なのかもしれません。

 日本には黒人はアメリカほど多くいませんが、他方、在日朝鮮人、韓国人、中国人、ブラジル系日系人、イラン人、トルコ人等々、この国で働く人種は様々。

既に日本語しか話せない日本生まれ日本育ちの2世、3世の方も多く、日本人として生きています。

人種差別、そして人種ヘイト犯罪をより身近な問題として着目すべきなのではないでしょうか。。

◎関連、お薦めリンク

※”Black Lives Matter”どう日本語に訳すかという本質的な問いそこから見えることがたくさんある東京大学教授 矢口 祐人(2020年6月18日、現代ビジネス)

※「黒人のアメリカ人として恐ろしい」 警官による黒人男性死亡で若者たち(2020年6月1日、BBC)

※NHKは何を間違ったのか~米黒人差別の本質(2020年6月24日、毎日新聞)

※人種を超えた、世界の問題「Black Lives Matter」 今、起こっていることを解説(2020年6月10日、Vogue Girl)

※30.05.2020 Billie Eilish のインスタ投稿和訳(2020年5月30日、「taylorswiftholicsのブログ」)

※Letter: All lives won’t matter until black lives matter, too (2020年6月11日)

◎語彙説明
*GPA(Grade Point Average)とは、各科目の成績から特定の方式によって
算出された学生の成績評価値のこと

 
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