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板画家
棟方志功の英語
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9月5日は、板画家・棟方志功の誕生日でした。

棟方さんは1903年青森県青森市の生まれ。少年時代にゴッホに出会い感動し、「わだ(私)はゴッホになる」と宣言し芸術家を目指しました。

棟方さんの板画は摺った和紙の裏から色をつける裏彩色(うらさいしき)という独特の手法。

「阿弥陀如来像」「蓮如上人の柵」「御二河白道之柵」「我建超世願」「必至無上道」など仏を題材にしたものが特に有名です。

そんな棟方さんですが、1959年56歳の時に米国に10ヶ月間招待されます。

現地でオーガナイズを務めたのはジャパン・ソサエティのベアテ・シロタ・ゴードンさん。

彼女は幼少期に日本で暮らした経験を持つ1923年生まれのオーストリア人。

翻訳などの仕事を経て、大戦後はGHQ民政局に所属し、日本国憲法草案制定会議のメンバーとして、日本国憲法に「男女平等」を書いた方としても知られています。

ベアテさんは棟方さんに米国の詩人ウォルト・ホイットマン(Walt Whitman)の代表作『草の葉(Leaves of Grass)』を紹介します。

棟方さんはとても気に入り、その詩集から数箇所を抜粋して12の作品を仕上げました。

他方、棟方さんアルファベットすらほとんど書いたことがなかったそうで、非常に苦労をしたとのこと。

実際、下記の作品では最後の「s」が作品上は裏返しになっている上に、一文字脱落しており、それを「↑」で後からつけたしています。

PerfectionsOnly themselves understand themselves and the like of themselves,As souls only understand soul ↑「s」

(完全な者たちただ彼ら自身だけが彼ら自身を、そして彼ら自身の同類たちを理解する、ちょうど魂だけが魂を理解するように)

(『草の葉』(中)(岩波文庫) 酒本雅之翻訳より)

ベアテさんは自伝の中で、この時のエピソードを次のように綴っています。

東洋の文化には、書道のように文字を美術としてみる伝統がある。

棟方先生も文字を彫るのが好きだった。先生はホイットマンの詩が気に入って、これを彫ったのだが、スペルをまちがって Souls understand souls の souls の末尾の s を落として彫ってしまった。

(略) でも soul の後には s を入れる余白はない。彫りなおすのは大変だ。

「先生どうします?」 「大丈夫、大丈夫。ベアテさんにさし上げた版画を返してください」

先生は全く気にしていない。 

数日後、その板画が送られてきた。私はそれをみて、あっと声をあげた。 

soul の下の余白に s をつけ加えて彫ってあったのだった。その s は、souls という言葉を超えて、1つの美術の造形になっていた。

私はそれを見たとき「塵も仏」の意味がわかったような気がした。

『1945年のクリスマス 日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝』 (ベアテ・シロタ・ゴードン著/平岡磨紀子構成・文)より

この「塵も仏」という言葉は、棟方さんが米国滞在中に行った講演の中で、次のように語られていたそうです。

「自分は版画を彫るとき、たとえまちがいをしても、その時は全霊を傾けて彫ったものであるから、たとえ正確さに欠けていても、そのこと自体はその時の必然として表われたので、自分はそれを善としているのです。つまり塵も仏、仏様にある埃も仏様の一部なのです」

『1945年のクリスマス 日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝』 (ベアテ・シロタ・ゴードン著/平岡磨紀子構成・文)より

当初、ベアテさんは棟方さんが言う「塵も仏」の英訳に大変苦労したとのこと。

“Dust is also God”では上手く通じず、日本語のできるアメリカ人教授のアドバイスで、”Dust is also Buddha”とすることで、ようやく理解されたそうです。

棟方さんの海外での制作には、多くの自板像(自画像)が存在しているとのこと。

注文が多かった事もあるようですが、海外へ出て逆に自分を見つめなおすことにもつながったのではないかとも言われています。

言葉や文化、歴史的背景の異なる人々との交流は、あらためて自分自身を理解するためにも、たいせつなことなのかもしれません。

ぜひ皆さんも、外の国へと一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

(*)参考リンク
『1945年のクリスマス 日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝』
   (ベアテ・シロタ・ゴードン著/平岡磨紀子構成・文)より

 
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