The Remains of the Day (日の名残り | カズオ・イシグロ原作) でイギリス英語とアメリカ英語
現代のイギリスを代表する作家の1人、カズオ・イシグロ氏(2017年ノーベル文学賞受賞)の長編小説『The Remains of the Day (日の名残り)』を映画化した作品です。
舞台はイングランド中南部のオックスフォードシャーにある貴族のお屋敷ダーリントン・ホール。時代は、第二次世界大戦前の1930年代後半と大戦後の1950年代です。
お屋敷の主であるダーリントン卿、主に仕える執事のスティーブンス、女中頭のケントンが話すRP(Received Pronunciation 「容認発音」)の英語、副執事のスティーブンスの父が話す労働階級出身者の映画、筆頭従僕のチャーリーの現代のEE(Estuary English 河口域英語、コックニーの特徴を混ぜた英語)に通じる英語、アメリカ下院議員のルイス氏のアメリカ英語など、社会的地位や国籍などによって異なる様々な英語に触れることができます。
次のシーンは1936年の国際会議の最終日に催された晩餐会。著書『世界の英語を映画で学ぶ』の中では、amateurとhonorの二つの言葉の発音に着目しています。このような語尾がrで終わる単語では、RPではいずれもr音を発音しませんが、標準アメリカ英語では、舌を巻いて口の奥で発音します。
amateurは、イギリスでは、「アマタ」のように発音されることが多く、一方アメリカでは動画のルイスのように「アマチュア」とカタカタの日本語「アマチュア」に近い音で発音するそうです。
honorも、ダーリントン卿の発音は「オナ」に、powerは「パアー」、hereは「ヒアー」と言っているように聞こえます。他にも動画の中でrで終わる単語、例えばルイスのhere、over、disaster、ダーリントン卿のtogether、here、なども注意して聞き比べてみてください。
Lord Darlington is a classic English gentleman of the old school.
ダーリントン卿は英国伝統の美徳を備えられた古典的な紳士です。
Decent and honorable and well-meaning.
上品で名誉を重んじる善意の方です。
So are all of you. All decent, honorable and well-meaning gentlemen.
皆さんも同じです。名誉を重んじる善意の方々。
It’s been a pleasure and a privilege to visit with you here.
お会いでき事は私の喜びです。
But now, excuse me. I have to say this.
しかし あえて言わせて頂きます。
You are, all of you, amateurs.
あなた方は皆 アマチュアだ
And international affairs should never be run by gentlemen amateurs.
国際問題はアマチュア紳士が扱うべきものではない。
Do you have any idea of what sort of a place the world is becoming?
世界が どうなりつつあるのか 皆さんに その認識が?
The days when you could act out of your noble instincts are over.
高貴な行動が尊ばれる時代は去った。
Europe has become the area of Realpolitik, the politics of reality.
現実を踏まえた政策が必要なのです。
If you like, real politics.
それが、これからの政治です。
What you need is not gentlemen politicians, but real ones.
紳士政治家が引っ込みプロに任せねば
You need professionals to run affairs, or you’re headed for disaster.
取り返しのつかぬ事体になるでしょう。
So I propose a toast, gentlemen, to the professionals.
皆で乾杯しましょう。プロに!
Lord Darlington(イギリス人貴族)
Well, I’ve no wish to enter into a quarrel on our last evening together.
せっかくの最後の夜に論争を始める気はありません。
But let me say this. What you describe as amateurism
ただ一言。あなたが”アマチュアリズム”と呼ばれたものを
is what I think most of us here still prefer to call honour.
あながたが”アマチュアリズム”と呼ばれたものを、我々は”名誉”と呼びます。
I suggest that your professionalism means greed and power
あなたの言う”プロ”とは”権謀術数の輩”
rather than to see justice and goodness prevail in the world.
正義とは善を軽視する連中です。
I’v never concealed from myself that what we were asking of Germany
我々が今 何よりもドイツに望むのは
is a complete break from the tradition of this country. Thank you.
過去の過ちを断ち切り 新生する事です。
ダーリントン卿は保守的標準英語(Conservative RP)と分類されるRPを話しているそうです。その特徴は上唇をこわばらせた「stiff upper lip」と言われる、口をあまり開けない話し方。それに対して、アメリカ人の英語は特に口のなかで舌を常に器用にひねりながら発音をしているように聞こえます。
「口のなかで舌を常に器用にひねる」なんて、やはりアメリカ英語の発音の方がイギリス英語より難しく感じてしまいます。
あなたはイギリス英語とアメリカ英語、どちらがお好きですか?
(*) 参照図書
世界の英語を映画で学ぶ (山口美知子 編著)
(2013年10月6日 投稿)