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Asian music heavily influenced Debussy, and Debussy heavily influenced me.
So the music goes around the world and comes full circle.
「アジアの音楽はドビュッシーに大きな影響を与え、ドビュッシーは私に大きな影響を与えた。音楽は世界を巡りまた元の場所へと戻っていく」
(BBC、2023年4月2日)
静かに水が揺らぐような、坂本龍一さんのピアノが大好きでした。
その坂本さんは、同じく水をイメージした数々の楽曲を残したドビュッシーに深く影響を受けていたことを知り、驚いています。
ドビュッシーは1862年フランスのパリ生れ。
27歳の時に、パリ万国博覧会でジャワ音楽であるガムランを耳にして、「世界には西洋音楽の規則に則らない音楽があるんだ」と衝撃を覚えます。
その後15年の歳月をかけて、東洋の音楽や風景を独自の表現で表すことに成功した「塔」という楽曲をドビュッシーは発表しました。
※ドビュッシー 「塔」
https://youtu.be/MzprvjMxVCU
アジア音楽に影響を受けたフランス人のドビュッシーに、日本人の坂本さんが影響を受ける。
音楽はぐるぐると世界を駆け巡りながら、どこか高みに向かっているような気がします。
坂本さんの生前のエピソードを、The New York Times が詳しく報じていました。
1990年から坂本さんが活動の拠点をニューヨークに移していたことも関係しているのかもしれません。
Mr. Sakamoto’s attention to sound suffused his daily life.
坂本さんの音へのこだわりは、日々の暮らしの中に息づいていました。
(The New York Times、2023年4月2日)
(*) suffused
〔液体・色・光などで~を〕満たす、覆う、一杯にする
マンハッタンにあった精進料理のレストラン「Kajitsu(カジツ/嘉日)」は、坂本さんの自宅からも近く、お気に入りのお店でした。
でも、店内でかかっているBGMがあまりにもひどく、坂本さんにとって耐えられないものだったそうです。
“Really bad. What was it?
It was a mixture of terrible Brazilian pop music and some old American folk music,” he said, “and some jazz, like Miles Davis.”
「本当にひどかった。
何なんだあれは。
ダサいブラジルのポップミュージックと、古いアメリカのフォークミュージック。それに、マイルスデイビスのようなジャズが交ざっていた」と彼は言った。
(The New York Times、2018年7月23日)
公共のスペースで流れる音楽に問題があるのはよくあることですが、普段の坂本さんであればその場をただ立ち去るのみでした。
でも、このレストランは坂本さんが本当に好きなお店で、シェフの大堂浩樹さんも尊敬していました。
坂本さんは大堂さんにメールを送り、「自分が気持ちよく食事ができるように、無給で音楽を選ぶ仕事を引き受けてもいい」と申し出ました。
“I love your food, I respect you and I love this restaurant, but I hate the music,” he remembered writing.
“Who chose this? Whose decision of mixing this terrible roundup?
Let me do it.
Because your food is as good as the beauty of Katsura Rikyu.
But the music in your restaurant is like Trump Tower.”
「あなたの料理は大好きだし、あなたを尊敬しているし、このレストランも大好きだけど、音楽は嫌いだ」と、書いたのを坂本氏は覚えていました。
「誰がこれを選んだんだ?
このひどい楽曲の寄せ集めは誰の判断だ?
私にやらせてください。
あなたの料理は桂離宮の美しさに負けないくらい素晴らしいのだから。
でも、あなたのレストランの音楽はまるでトランプタワーのようだ」
(The New York Times、2018年7月23日)
坂本さんはレストランで食事をしながら、あらためて店内に流れている音楽を注意深く聴きました。
そして、レストランの壁の色、家具の質感、部屋のセッティングなどとても明るい雰囲気なのに対し、音楽があまりにも暗いことがわかりました。
「Kajitsu(カジツ/嘉日)」のためのプレイリストを完成させるまでに、坂本さんは、少なくとも5回は作り直したと言います。
46曲、約3時間15分に及ぶRyuichi Sakamoto Restaurant Playlistは、Spotifyで公開されています。
坂本さんの遺したプレイリストに耳を傾けながら、故人が愛した音楽の世界に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
※Ryuichi Sakamoto Restaurant Playlist
(試聴には登録(無料)が必要です。一部試聴できない楽曲があります)
(*) 参照リンク
※Ryuichi Sakamoto: Japanese electronic music maestro dies (BBC、2023年4月2日)
※Ryuichi Sakamoto, Oscar-Winning Composer, Dies at 71 (The New York Times、2023年4月2日)
※Ryuichi Sakamoto, Annoyed by Restaurant Music (The New York Times、2018年7月23日)
(*) 参考リンク
※ガン闘病中の坂本龍一さん、外苑再開発見直し要望書を東京都に送付「何もしなかったら禍根を残す」(東京新聞、2023年3月16日)