顔について
今から30年程前の話しになります。
女房が新宿のある病院から帰ってきて言いました。今日受付の椅子に順番待ちで座っていると、60過ぎのしらない叔父さんが私の前で止まり、しばらく私の顔をみてから
「美人じゃないが良い顔してる」
と言って立ち去ったそうです。 女房は美人じゃないと念をおされた事で多少不満をもっている様で、私にその話しをしました。
私は
「それは最高の誉め言葉だよ」
と言いました。
「世に美人は3日で飽きる。ブスは3日でなれるというだろう。 美人は探せばいくらでも居るが、良い顔をしている人は、そうザラには居ない」
と話すと、どうやら満足した様です。
私は女房とつれそって50年余りたちますが、近所の娘さんからは福本さん夫婦の様になりたいといわれた事があります。私達は一日中馬鹿話で笑っているので、余程仲の良い夫婦だと思ったのでしょうか。
実際喧嘩をする時は、今はやりの「K-1」並の派手なものです。今でこそ暴力は振るいませんが、若い時は「これ以上その事で俺をおこらすとなぐるぞ」と宣言して、そうなると多少手加減はするのですが、彼女をなぐっておとなしくさせました。その時は一応それでおさまるのですが、翌日になると彼女の顔はなぐられたところが紫色になり、次には黄色に変わり、普通の肌色になるには半月程かかってしまい。
その間女房の機嫌をとるために平身低頭で詫まるのです。私は大体半日も怒っていられないたちなので、今度は彼女の言いなりで、貴方は何回なぐったから同じ数だけなぐらせろと要求され、結局ブッシュに尾を振る小泉の如くになってしまいます。
少し話題からかずれたので、元に戻ります。
人間は40過ぎたら自分の顔に責任をもてといいます。どんなに偉そうな事を言っても、心が正しくないと良い顔にはなれません。それでは、良い顔を見分けるにはどうしたら良いかという事になりますが。
昔、質屋さんに小僧さんが入ってくると(入社)、良い品物ばかりを見せる相です。良い品を数多く見ると悪いう品や、偽者の区別がつく様になるそうです。
私は若い時、一時絵描きになりたくて、今迄つとめていた日立(重役さんの世話で入社したのですが)を嘘をついて退めました。親父は私に一生日立に骨を埋めると約束させて重役さんに頼んだので、あとでばれてからカンカン怒って勘当になった事があります。その位ですから絵の良し悪しにも一見識があります。その見識を育ててくれたのが秦西名画全集です。何時も名画ばかり見ていると、心のいやしい人達が真似して描いた物は直ぐに分かるものです。
20年程前の話になりますが、少し土地が欲しいと思い、ある人の紹介で東京を引き払い軽井沢の方に移るという人に会いました。女房と2人でその人に会った瞬間に女房も私も、この人にはかなわないと感じ、自分が土地等ほしがった事がはづかしくなりました。
実に綺麗な涼し気な眼をしている方でした。作品も素晴らしい物でした。土地はあきらめて作品だけみさせて頂いて、ほうほうのていで退散した事があります。
皆さんも身の回りに居る人達の顔を良くみて下さい。きっと素晴らしい顔をお持ちの方が居ると思います。
では、今日はこれで。
2007年11月08日